研究成果03

口頭発表

口頭発表2001年(平成13年)

1.

離乳後全身性消耗症候群(PMWS)の実験的再現

伊原武志、平井卓哉、草薙公一、加藤哲雄、布谷鉄夫
日本生物科学研究所
第131回 日本獣医学会

要旨:【目的】感染豚の臓器乳剤を用いて、離乳後全身性消耗症候群(PMWS)症状及び病変の再現。【材料及び方法】PMWS罹患豚のリンパ組織の10%乳剤をクロロホルム処理したものを、初乳を与えず人工哺乳した2日齢の豚13頭に1頭当たり10TCID50鼻腔内接種した。非接種対照豚は、母豚に付けて飼育した。接種材料は、PCRでPCV-2陽性、PCV-1、豚パルボウイルスおよび豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルスが陰性であった。試験豚は経時的に剖検し、病理検索、競合PCR法によるDNAの検出およびIPMA法による抗体検出を行った。【結果及び考察】〔1〕接種豚全てにおいて、感染後2週目より、主要臓器およびリンパ組織でPCV-2のDNAが検出された。リンパ組織では、感染後2週目にDNA量はピークとなり、その後徐々に減少した。血清中のDNA量は、3および4週目でピークとなったが5週目には減少し検出出来ない個体も認められた。〔2〕病理組織検索では、2週目にPCV-2によると思われる経度の病変がリンパ節に認められ始め、3~4週目に病変が最も強く出現したが、5週目には病変の程度は軽減した。〔3〕血清中のIPMA抗体価は、感染後2週より検出され、5週まで徐々に上昇した。〔4〕接種豚のうち1頭が、接種後24日目に黄疸を呈して死亡した。組織所見では肝臓とリンパ組織にPCV-2による重度の病変が認められ、PCV-2陽性の封入体が多数検出された。また、検索した全ての組織から高濃度のPCV-2のDNAが検出された。以上の結果より、実験的にPMWSの再現が可能なことが明らかとなった。

2.

Level control of transcription apparatus in Escherichia coli

Ishihama,A., Maeda,H., Koshio,E., Yata,K., Iwata,A.1) and Ueda,S.1)
National Institute of Genetics,
1)Nippon Institute for Biological Science
The 2001 Molecular Genetics of Bacteria and Phages Meeting University of Wisconsin, USA,July31-August 5,2001.
Abstract:The RNA polymerase core enzyme of Escherichia coli differentiates with respect to the promoter recognition properties.In the first step of functional differentiation,the core enzyme associates one of seven different species of the sigma subunit to form the respective holoenzymes.In the second step,the RNA polymerase interacts with one (up to three in rare cases) of 100-150 molecular species of the transcription factor.The intracellular levels of both sigma factors and transcription factors are considered to be the key determinants influencing the global pattern of transcription among about 4,000 genes on the E.coli genome.We have purified all seven sigma factors and more than 50 transcription factors,and produced specific antibodies against the purified proteins.By using the quantitative immunoblot assay,we have determined the intracellular levels of these proteins under various growth conditions.The current state of this line of our approach will be summarized.

3.

日生研ミニブタ(NIBS系)の確立と繁殖成績

小松和英、阿久津祐一、金井朋子、斎藤敏樹、坂本裕二、新海久夫、小松正憲1)
矢沢肇、水谷誠
日本生物科学研究所、
1)農水省中国農業試験場
日本実験動物科学技術大会2001

要旨:1967年、当研究所はピットマンムーア系を米国より導入後、実験動物用ミニブタとして約30年間維持してきた。しかし、この系統は成時体重が雄は100~120kg、雌は80~100kgと体型が現在のミニブタより大きく、かつ体毛および皮膚色が有色のため実験動物としては不利と思われた。そこで、1988年よりピットマンムーア系、台湾小耳種およびゲッチンゲン系の三元交雑種を起源として白色でピットマン系より小型の実験動物用ブタの確立を開始した。1993年、目標体重に合致した雄1雌1を選抜し、この1ペアーから生産コロニーを確立しNIBS系と命名した。NIBS系は3群によるローテーション方式で維持、生産(年間350匹)されている。日生研製ミニブタ用飼料NSA、NSB、NSを使用した繁殖成績は以下の通りである。性成熟は雄8ケ月齢、雌6~7ケ月齢で初発情は3~4ケ月齢、発情持続時間は約60時間、雄の許容時間は約48時間、発情周期は21.6±1.4日、妊娠期間は109~117日(平均113.6日)、妊娠率は94%、産子数は1~9匹(平均4.7匹)、離乳率は84%である。出生時平均体重は465±145gである。なお、分娩、育児が安定するのは3~8産でその前後は産子数および子ブタの大きさにばらつきがあるなど育成率の低いことが判明している。繁殖開始月齢は雄8~10ケ月齢でその時点の平均体重は雄30kg、雌25kgである。体重がプラートになる3~5年齢でも雄60kg、雌58kg以内と比較的小型である。また、血液学的および血液生化学的検査値および体重曲線、臓器重量比についても報告する。なお、主要組織適合性遺伝子座のMHCクラスⅡ領域のDRB1座位はd/d型に、DQA座位はd/d型に、DQB座位はS09/S09あるいはS10/S10にそれぞれホモで固定していることが判明している。

4.

狂犬病DNAワクチン

土屋耕太郎、石川孝之、佐藤一郎、勝俣淳、山元哲、金井朋子、岩田晃、上田進
日本生物科学研究所
第132回 日本獣医学会

要旨:【背景】DNAワクチンはその初期の報告以来、新しい免疫法として注目されているものの、一般的なワクチンとして使用されるためにはその接種法や確実さの点でさらに技術的な改良が必要であり、その使用法についても検討されなければならない。【目的】本研究では、狂犬病DNAワクチンの有用性をブースター効果と投与法という2つの観点から検討した。【材料と方法】基礎免疫を受けた犬に対し、100μgあるいは10μgの狂犬病ウイルスGタンパク質遺伝子を挿入したプラスミドDNAを筋肉内に接種し、中和抗体価の上昇を観察した。さらに、マウスを用いて筋肉内投与法と皮内投与法を比較検討した。【結果】基礎免疫を受けた犬では10μgのプラスミドDNA投与群でも5頭中4頭で4倍以上の中和抗体価の上昇が認められた。また、Naïveなマウスを用いた投与法の検討では、皮内投与法の方が筋肉内投与法より免疫応答の陽性率が高かった。【考察】Naïveな犬に対して上記のプラスミドDNAを筋肉内投与し、抗体応答を得るためには100μg程度のが必要であったが、同様の投与法でブースター効果を得るためには、より少ないDNA量で十分であると考えられた。また、DNAワクチンの投与法として皮内投与法を検討し、従来から使用されている筋肉内投与法と比較して良好な成績が示され、今後の更なる投与法の検討がDNAワクチンを実用化する上での重要なテーマと考えられた。

5.

鶏伝染性気管支炎の流行と予防対策

林志鋒、井土俊郎
日本生物科学研究所
第132回 日本獣医学会

要旨:鶏伝染性気管支炎(IB)の流行とその予防の歴史は、新たな抗原変異株の出現とそれに対応するワクチンの開発の歴史でもある。この背景にはIBウイルス(IBV)の伝播力の強さと抗原変異株が容易に出現するという病原体側の特性がある。大部分の病原体は環境に順応して事態が生残していくため、種々な変異を起こしているが、IBVの抗原性の変化はその極端な現れといえる。現在の養鶏の実状からみて、完全な隔離による感染症対策は困難であることから、IB対策はワクチンを如何に適切に応用するかが基本になる。IBワクチンは、当初、マサチューセッツタイプの株に由来するワクチンが開発され、野外におけるIBの予防に大きく貢献した。しかしながら、その後、既存株と抗原性が異なるウイルスによるIBが繰り返し流行し、数多くの抗原性を異にするIBVが分離および確認されてきた。現在では、種々の株に由来するIBワクチンが実用化され、これにより大きな流行は制圧されているものの、部分的な被害は後を絶たない状況にある。野外に存在するIBVは多様な抗原性状を有することが推察されるため、ワクチン株の流行株に対する抗原交差性の程度がワクチンの効果に大きく反映する。一般に、広い抗原領域を有する株で免疫すれば多くの株に対する交差免疫性を示す。また、生および不活化ワクチンの組み合わせで免疫すればより広範な交差免疫性を獲得することが知られている。IBの予防対策は、より的確な野外流行株に対する交差免疫性を賦与することが重要である。本講演では、国内におけるIBワクチンと野外流行株の歴史的動向について述べるとともに、IBのより効果的な予防対策についてその考えを述べたい。

6.

Neospora caninum感染細胞におけるIFN-γによるアポトーシスの誘導

西川義文、岩田晃1)、長澤秀行、大塚治城2)、見上彪3)
帯広畜産大学原虫病研究センター、
1)日本生物科学研究所、2)東京大学農学部
3)日本大学生物資源科学部
第131回 日本獣医学会

要旨:病原体感染に対する宿主の防御免疫機構にはサイトカインの働きが重要である。そのなかでも感染細胞に対するインターフェロン(IFN)の作用が注目されている。今回、IFNが細胞内寄生原虫ネオスポラ(N.caninum)感染に及ぼす影響をin vitroで解析した。3種類のIFN(IFN-α,-β,-γ)がN.caninumの増殖に与えるviabilityが著しく減少した。そこで、IFN-γに関するその機構の解明に注目した。IFN-γによりviabilityが低下した感染細胞において、PI染色、TUNEL、DNAラダーの観察によりアポトーシスの誘導が確認された。虫体あるいはIFN-γのみを細胞に作用させた場合、顕著なアポトーシスの誘導は見られなかった。アポトーシスを誘導する場合は、作用させるIFN-γと感染させるN.caninumの虫体数に依存した。アポトーシスが誘導される感染細胞では、カスパーゼ3と8が活性化され、さらにFasとFasLの発現の増加がみられ影響を調べたところ、すべてのIFNで虫体の増殖を抑制し、その中でも特にIFN-γはその効果が高かった。またN.caninum感染細胞にIFNを作用させると、そのた。感染細胞にIFN-γを作用させた場合、Bcl-2の発現は対照群に比べて抑制された。これらの結果より、N.caninum感染細胞におけるIFN-γ誘導アポトーシスはFas-FasL系でのカスパーゼ8を頂点とするカスパーゼ3の活性化、Bcl-2の発現抑制が関与していることが示唆された。また、宿主内の虫体の排除にはIFN-γが誘導するアポトーシスが関与していると推測される。

7.

組換えネコ顆粒球コロニー刺激因子(rfG-CSF)のネコへの投与における血液学的パラメーターの変化

倉茂晃子、岡村智崇1)、岡山太郎、久末正晴2)、山元哲3)、岩田晃3)、増田健一、
大野耕一、辻本元
東京大学農学部、
1)日本大学生物資源科学部、2)麻布大学、3)日本生物科学研究所
第132回 日本獣医学会

要旨:【はじめに】組み換えヒト顆粒球コロニー刺激因子(rhG-CSF)をネコに投与した場合、初期には特異的に好中球を増加させることが知られているが、rhG-CSFをネコに対して頻回使用すると抗hG-CSF抗体が産生され、その効果が持続しないばかりではなく、内因性G-CSFを抑制して白血球減少症を引き起こすことがある。今回、大腸菌で作成したrfG-CSFの臨床的効果を検討するため、rfG-CSFをネコに投与し、血液学的パラメーターの変化を解析した。【材料と方法】実験1:健康ネコ2頭にrfG-CSF 50mg/headを4日間連続投与し、5日目に血液検査および骨髄検査を実施した。実験2:健康ネコ13頭にサイクロフォスファマイド(CPA)300mg/m2を2日間連続投与した後、Control群6頭、G-CSF群7頭に分け、G-CSF群にはrfG-CSF50mg/headをCPA初回投与後5、6日目に投与し、血液検査および骨髄検査を実施した。【結果および考察】実験1では、未消血中白血球数は投与前の13100~15700/mlからrfG-CSF投与後35400~36600/mlに増加し、骨髄においてはM/E比の上昇が認められ、顆粒球系前駆細胞の増殖・分化の促進が顕著であった。実験2では、2群の血球数算定の結果、G-CSF群において、未消血中の好中球数および単球数の有意な増加が認められた。骨髄においては、顆粒球系前駆細胞の増加が明らかに認められなかったことから、未消血中の血球数の増加は骨髄プールからの放出によるものであることが示唆された。

8.

振戦を伴う黒毛色ハムスターでのAtr遺伝子の発現異常

野本朋子、庫本高志、水谷誠1)、藤原哲1)、杉村隆、牛島俊和
国立ガンセンター研究所、
1)日本生物科学研究所
日本実験動物科学技術大会2001
要旨:【目的】BN系ハムスターは、振戦、中枢神経系のミエリン形成不全、聴性脳幹反応の異常、黒い毛色を特徴とする神経系ミュータントである。これらの形質は、常染色体の単一劣性遺伝子black tremor(bt)により支配されている。一方、zitterラットは、BN系ハムスターと酷似した変異形質(振戦、弛緩性麻痺、中枢神経系の空胞変性とミエリン形成不全、聴性脳幹反応の異常、アグーチ依存性の黒毛色)を示す。最近、我々はzitterラットの原因遺伝子zitter(zi)がAttractin(Atrn)遺伝子のloss-of-function変異アレルであることを、ポジショナルクローニング法により解明した。本研究では、表現型の類似からbtはAtrn遺伝子の変異アレルであると予測し、ハムスターAtrn遺伝子の塩基配列決定、BN系での発現異常と突然変異を解析した。【材料と方法】ハムスターAtrn遺伝子の塩基配列は、ハムスター脳cDNAをラットAtrn遺伝子由来のプライマーにより増幅し、直接シークエンス法により決定した。Atrn遺伝子の発現解析は、4ケ月齢のBN系(bl/bl)と正常対照系統であるGN系(+/+)の脳から抽出したpoly(A)+RNAのノーザンプロットに対して、ラットAtrn遺伝子をプローブとしたハイブリダイゼーションにより行った。また、BN系とGN系の脾臓よりゲノムDNAを抽出し、サザンプロット解析とイントロン塩基配列の決定に用いた。【結果と考察】ハムスターAtrn遺伝子は、1,427アミノ酸長の蛋白質をコードしており、ラットATRN蛋白質とは97%の相同性があった。ノーザンプロット解析の結果、GN系では9kb、BN系では約4.5kbのバンドが検出され、露光時間の延長により、BN系では6.5kbと9kb以上のバンドが検出された。また、BN系のcDNAからは、ラットAtrn遺伝子のエクソン21以降に相当する断片は増幅できなかった。5種類の制限酵素を用いたサザンプロット解析では、GN系とBN系間に差違は検出できなかった。以上の結果から、BN系におけるAtrn遺伝子のイントロン20以降のスプライス部位の変異が示唆された。現在、イントロン20以降を増幅し、変異部位の同定を行っている。

9.

ニワトリにおけるウイルス抵抗性Mx遺伝子の多様性と機能に関する研究

渡辺智正、高在弘、浅野淳、高田礼人、喜田宏、宝寄山裕直、大原睦生、都築政起、
西堀義雄1)、水谷誠2)
北海道大学獣医学部、
1)広島大学生物生産学部、2)日本生物科学研究所
第98回 日本畜産学会

要旨:【目的】動物には特異的な遺伝子発現により、感染ウイルスの増殖を抑制する機構がある。Mx遺伝子はインターフェロン刺激によって発現し、RNAウイルスに対して抵抗性作用を示す。マウスのMx遺伝子には多型が存在し、抵抗性と感受性タイプが報告されている。一方、ニワトリでは抗ウイルス作用のない感受性タイプのMx遺伝子しか報告されていなかった。そこで、本研究では12品種以上のMx遺伝子の検索を行い、変異の有無を調べた。【成績】胎子由来繊維芽細胞からRNAを分離しRT-PCR法を用いてMxcDNAの全長を増幅した。それらの塩基配列を解析した結果、既報と比較して6から12のアミノ酸置換が認められ、きわめて多様性の高いことが判明した。既報と遺伝的に遠いと考えられた品種のMx遺伝子を3T3細胞に導入発現させた後、水性口内炎ウイルス(VSV)を用いた感染実験を行い増殖抑制を調べた結果、シャモの一品種がコントロールより明らかに抗ウイルス活性が高かった。以上より、ニワトリのMx遺伝子には品種によりウイルス感染に対して抵抗性・感受性タイプの多様性が存在することが明らかとなった。

10.

近交系ハムスターのホーディング行動の系統差

和田由美子、野沢孝司、高橋阿貴、梅沢英彦1)、勝家康富1)、水谷誠1)
筑波大学、
1)日本生物科学研究所
第61回 日本動物心理学会

要旨:シリアンハムスターには、毛色変異をはじめとする様々な種内変異が存在する。しかし、シリアンハムスターの行動上の種内変異については、これまでほとんど明らかにされていない。本研究では、日本生物科学研究所で維持されている6系統の近交系シリアンハムスター(ACN,ACNT,APA,APG,CN,GN)を用い、この種に特徴的なホーディング(頬袋への餌のためこみ)の系統差を調べた。テスト刺激としては、蚕の蛹(1日目)、ひまわりの種(2日目)、ベジタボール:市販のハムスターのおやつ(3日目)、綿花(4日目)を用いた。テストは1日1試行で、ホームケージ(個別飼育)に刺激を入れ、被験体が刺激を嗅いでから5分以内にホーディングするかどうかを記録した。ひまわりの種とベジタボールに関してはほぼ全個体がホーディングを示し、系統差は見られなかったが、蚕の蛹と綿花については、ホーディングする系統としない系統(ACN,APA)に分かれた。蚕の蛹に対する反応を再テストした結果、1回目のテストで全くホーディングを示さなかった系統(ACN,APA)も2回目のテストではホーディングを示すようになることがわかった。このことから、ホームケージに刺激を投入されるというテスト場面への慣れ、または餌としての蚕への慣れが、ホーディングに影響を与えている可能性が考えられる。そこで次に、テスト場面によく慣れた上記と同じ被験体を用いて、新奇な餌(麦チョコ)に対する反応を調べた。その結果、ほとんどの系統が1回目の呈示で麦チョコを摂取したのに対し、蚕のホーディングを示しにくかったACNとAPAでは、麦チョコを食べない個体が多いことがわかった。しかし、5回の連続呈示後にはACNとAPAも麦チョコを食べるようになったので、初期の麦チョコ回避は、餌の新奇性によって生じたものであると考えられる。以上の結果から、上記の6系統のハムスターのホーディングの系統差は、餌への新奇恐怖反応の系統差を反映していること、ACNとAPAは特に新奇恐怖を示しやすい系統であることが示唆される。このような新奇恐怖の系統差が餌に対する反応に限定されたものなのか、あらゆる新奇刺激に対して共通して見られるものなのか興味深い問題であり、今後様々な新奇場面で系統差を検討してみる必要がある。

11.

実用鶏におけるウイルス抵抗性Mx遺伝子の多様性に関する研究

高在弘、サミールエルシャズリー、浅野淳、長谷部誠2)、鈴木真也2)、垣田慎一郎2)、宝寄山裕直3)大原睦生、水谷誠1)、渡辺智正
北海道大学獣医学部、
1)日本生物科学研究所、2)後藤孵卵場、3)北海道畜産試験場
第99回 日本畜産学会

要旨:【目的】Mx遺伝子はインターフェロン刺激により発現し、RNAウイルスに対して増殖抑制作用を示す。これまでニワトリには抗ウイルス活性のない感受性タイプのMx遺伝子しか報告されていなかったが、前回本大会で日本在来種を含む14品種以上のMx遺伝子のcDNAの塩基配列を決定したところきわめて多様性が高く、感染実験の結果シャモの1品種に抗ウイルス活性の高い抵抗性タイプのMx遺伝子を検出した。そこで、本研究では実用鶏におけるMx遺伝子の検索を行い、変異の有無を調べた。【方法】約10品種の実用鶏胎子由来繊維芽細胞からRNAを分離しRT-PCR法を用いてMxcDNAの全長を増幅し塩基配列を解析した。さらに一部についてin vitro感染実験を行った。【結果】実用鶏においてもMx遺伝子はきわめて多様性の高いことが判明した。今回の成績までの合計で25箇所の塩基置換と、そのうち14箇所でアミノ酸置換が観察された。また、実用鶏に特有の変異も確認された。感染実験の結果、ウイルス感染に対して抵抗性・感受性タイプを大きく決定しているアミノ酸部位は2箇所にしぼりこまれた。

12.

Characterization of one hundred microsatellite loci Japanese quail and cross-species amplification in chicken and guinea fowl

Kayang,B.B., Inoue-Murayama,M., Hoshi,T., Matsuno,K., Takahashi,H.,
Minezawa,M., Mizutani,M
.1) and Ito,S.
岐阜大学農学部、
1)日本生物科学研究所
第99回 日本畜産学会

Abstract:In line with the Gifu University's initiative to map the Japanese quail genome,a total of 100 Japanese quail microsatellite markers isolated in our laboratory were evaluated in a population of 20 unrelated quails randomly sampled from a colony of wild quail origin.Ninety-eight markers were polymorphic with an average of 3.7 alleles per locus and a mean heterozygosity of 0.42.To determine the utility of these markers for comparative genome mapping in Phasianidae,cross-species amplification of all the markers was tested with chicken and guinea fowl DNA.Amplification products similar in size to the orthologous loci in quail were observed in 42 loci in chicken and 20 loci in guinea fowl.Of the cross-reactive markers,57.1% in chicken and 55.0% in guinea fowl were polymorphic when tested in 20 birds from their respective populations.Five of 15 markers that could cross-amplify Japanese quail,chicken,and guinea fowl DNA were polymorphic in all three species.Amplification of homologous loci was confirmed by sequencing 10 loci each from chicken and guinea fowl and comparing with the corresponding quail sequence.The microsatellite markers reported would serve as a useful resource base for genetic mapping in quail and comparative mapping in Phasianidae.Key words:Japanese quail/microsatellite loci/chicken/guinea fowl/comparative genetic map

13.

ニワトリ筋ジストロフィー原因遺伝子の同定に向けたニワトリ機能遺伝子のマッピングとヒトとの比較染色体地図分析

吉沢泰子、万年英之、菊池建機1)、水谷誠2)、辻荘一
神戸大学農学部、
1)国立精神・神経センター神経研究所、2)日本生物科学研究所
第2回 日本動物遺伝育種学会

要旨:【目的】ニワトリのニューハンプシャー413系遺伝性筋ジストロフィーは40年以上前からその存在が知られているにもかかわらず、疾患原因遺伝子はまだ明らかにされていない。我々はこれまでの研究で、マイクロサテライトマーカーやAFLPマーカーを用いた連鎖解析の結果から、この疾患遺伝子はニワトリ第2染色体q腕上に存在することを示唆した。また、比較染色体地図分析により、ニワトリ第2染色体q腕とヒト第8染色体q腕の一部の間でsyntenyが認められたことから、ヒト第8染色体q腕に存在する機能遺伝子が本疾患原因遺伝子である可能性が示唆された。そこで本研究では、この領域におけるヒト・ニワトリ間のsyntenyを確認し、疾患原因遺伝子のより詳細なニワトリ染色体上における位置を明らかにすることを目的とした。【方法】筋ジストロフィー発症系統と正常系統での戻し交雑により作出されたリソースファミリーを供試した。ヒト8q21-24に存在する機能遺伝子11個についてニワトリの遺伝子領域を増幅するようなプライマーをGenbankのデータを基に設計し、PCR法により遺伝子領域を増幅、塩基配列をリソースファミリーの両親間で比較した。多型が示された機能遺伝子について、PCR-RFLP法を用いてリソースファミリーで連鎖解析を行い、ニワトリ染色体上への位置付けを行った。【結果】ニワトリ第2染色体に新たに6個の機能遺伝子が位置付けられた。この結果から、ヒト8q21-24とニワトリ第2染色体q腕との間には高いsyntenyが保たれていることが明らかになった。ニワトリ筋ジストロフィー原因遺伝子は第2染色体の機能遺伝子CALB1の15cM遠位側、RPL30の21.4cM近位側に存在することが示された。今後、この領域に存在する機能遺伝子をニワトリ染色体に位置付けすることにより、疾患原因候補遺伝子を絞り込むことが可能になると考えられる。

14.

Cross-species amplification of Japanese quail and chicken microsatellite loci for comparative genetic mapping in the family Phasianidae.

Kayang,B.B., Inoue-Murayama,M., Hoshi,T., Matsuno,K., Takahashi,H.,
Minezawa,M., Mizutani,M
.1) and Ito,S.
岐阜大学農学部、
1)日本生物科学研究所
第2回 日本動物遺伝育種学会

Abstract:【Objective】This study was carried out to isolate and characterize original Japanese quail and chicken microsatellite markers and to determine their utility as cross-reactive markers for comparative genetic mapping in the family Phasianidae.【Methods】Microsatellite markers were isolated from Japanese quail and chicken genomic libraries.Quail markers were evaluated in a sample of 20 unrelated quails and cross-species amplification was tested with chicken and guinea fowl DNA.Cross-reactive markers were then screened on 20 unrelated birds sampled from their respective species.Chicken markers were typed on 12 unrelated chicken and cross-species amplification was performed on Japanese quail and guinea fowl DNA.【Results】100 markers were isolated from quail with an average of 3.7 alleles per locus and a mean heterozygosity of 0.42 and 98 of them were polymorphic.42 loci in chicken and 20 loci in guinea fowl cross-reacted with the quail markers.Of these,57% were polymorphic in chicken and 55% in guinea fowl.Five out of 15 markers that could cross-amplify Japanese quail,chicken and guinea fowl DNA were polymorphic in all three species.In chicken,29 markers were isolated with an average of 2.9 alleles per locus and a mean heterozygosity of 0.18,and 86.2% of them were polymorphic.31% of them cross-reacted with Japanese quail DNA and 0.07% with guinea fowl DNA.Mapping of markers by a quail reference family is underway for the development of a genetic map for Japanese quail and the eventual construction of a comparative genetic map in Phasianidae.

15.

ニワトリALV-Aレセプター遺伝子型と肉腫抵抗性との関係

Chourkina Irina,Bossak Natalia,矢内早苗、榛沢章三、韮沢圭二郎1)、水谷誠2)、三橋忠由
独立行政法人農業生物資源研究所、
1)独立行政法人家畜改良センター、2)日本生物科学研究所
第2回 日本動物遺伝育種学会

要旨:【目的および方法】ニワトリ白血病/肉腫ウイルス(Leucosis/Sarcoma group)(ALV)抵抗性にはレセプター遺伝子の変異が関係しているとの報告がある。しかし、その報告の中で矛盾する例も示されている。そこで抵抗性系統としてALVサブグループA、B、Eに抵抗性として確立された系統C/ABE、少なくともサブグループAに抵抗性の系統、感受性系統としてA、B、C、Eに感受性の系統(C/O)、Aに少なくとも感受性だが腫瘍縮小能力を示す系統、少なくともAに感受性のロードアイランドレッド内の系統、計5つの系統について、ALV-Aレセプター遺伝子型を測定した。また、C/ABE及びC/O系統のうちの数羽について内因性レトロウイルス(ev)遺伝子の存在をPCR法を用いて測定した。【結果】C/ABE及び01は全て報告されている抵抗性遺伝子型(R)をホモに持っていた。腫瘍縮小能力を持つ11にはR型、感受性型(S)のホモ、ヘテロが混在していた。C/Oは感受性であるにもかかわらず、測定したうちの3羽はRのホモ型であった。さらに、YSは腫瘍を発生する感受性であるにもかかわらず全てRのホモ型であった。このことから、RSV-A感受性はこれまでに報告されているレセプター遺伝子型とは必ずしも関係しないと思われた。しかしまた、抵抗性ニワトリは全て抵抗性ハプロタイプを持っていることから、ALV-Aレセプター遺伝子内の他の変異あるいは近傍の領域の何らかの変化が抵抗性に関与していることが考えられた。

16.

Index法による指示物質の回収率と補正値による消化率

小牧弘、基常智之、山本弥生、神崎博子、神尾章子、藤森裕子、五味きみえ、唯村絵美、
村田保徳、山田武史、矢沢肇1)、水谷誠1)、小松和英1)、松村芳秀1)
日本大学生物資源科学部、
1)日本生物科学研究所
第2回 日本動物遺伝育種学会

要旨:【目的】Index法による消化試験で、しばしば指示物質(MKr)の糞への回収率が100%でなく、動物別または指示物質によって大きく異なった消化率(Dig)が算出されていることが多い。そこで、まず豚を用いて全糞採取法とIndex法による消化率を比較した。また、内部指示物質はADL、AIA、植物性ワックス(C25~33)アルカン等があるが、本発表ではADLとした。外部指示物質にはCr203、ポリエチレングリコール(PEG)、二酸化チタン、イッテルビュ-ム、ビーズ、ゴム片、メロンの種等があるが、酸化クロムを例にして全糞採取法と比較検討しました。また、各指示物質の回収率を算出し、その回収率を用いて糞中の指示物質%を補正して補正指示物質%(=糞中指示物質%/指示物質の回収率%)に置き換えて回収率を求めた。また、Index法による消化率を算出して全糞採取法の消化率と比較検討した。【結果】〔1〕各飼料中のCr203の回収率は、高いものではなく、そのまま消化率を算出すると全糞採取法の消化率との間で顕著な差を認めた。〔2〕補正Cr203、補正ADLによる消化率は全糞採取法による消化率と差を認めなかった。〔3〕予備試験期間の1日か2日間で回収率を求め、その回収率を用いて補正値(糞中指示物質%)を求めて消化率を算出する必要性を示唆した。

17.

ペット用ミニ豚飼料の作製

山本弥生、神崎博子、神尾章子、藤森裕子、五味きみえ、唯村絵美、村田保徳、
基常智之、山田武史、小牧弘、矢沢肇1)、水谷誠1)、小松和英1)、松村芳秀1)
日本大学生物資源科学部、
1)日本生物科学研究所
第3回 ペット栄養学会

要旨:【目的】近年、欧米諸国ではペット用ミニ豚が注目されているが我が国では普及が遅れている。通常、ミニ豚は制限給餌で個体管理によって飼育されているが、ミニ豚にはミニ豚用の制限給餌飼料やドッグフード、産業豚用飼料などを給与し、ややもすると肥満傾向になることが認められている。ミニ豚には産業豚のような飼養標準はない。これらの問題に対応するために、不断給餌期における消化率と養分要求量について検討することとした。豚の成長はエネルギー給与水準に左右され、成長量を決定するのはCPや他の栄養水準ではなく、エネルギー摂取量の多少であると云われている。エネルギー摂取量を制限する方法には量的制限法と質的制限法がある。ペットの訓練上、常食には低目の栄養価の飼料を給与し、ご褒美用ビスケット等を加えて1日の養分量としなければならない。ペットのミニ豚にはエネルギーの過給傾向になるため特に注意する必要がある。本試験では先に制限給餌による基準成長曲線を定め、その成長曲線に近い傾向を示す不断給餌用飼料の作製を試みた。供試動物は日生研(株)で生産された白毛色ミニ豚NIBS系ミニ豚種雄9頭を用い、各区3頭を配して、生後3ケ月齢から9ケ月齢まで飼育試験を行い、月1回の割合で消化試験・N出納試験を実施した。通常は平飼豚舎で飼育し、消化試験期には糞尿分離可能の代謝試験装置に収容して消化試験を実施した。供試飼料はマイロとビートパルプを主体としたNU飼料を基礎飼料とし、供試飼料中のビートパルプの配合量を34%に限定し、残りを大豆粕で調整して粗蛋白質(CP)12、14%とNU飼料の3飼料区を設け、不断給餌による飼育試験を行った。給餌飼料は全て選り食いができないようにペレット状にして給与した。【結果】NL-12、NU飼料区の飼料摂取量は同様な傾向で推移したが、NH-14区は最も摂取量が少なく、4ケ月齢より減少傾向を示したが、体重の推移では各飼料区中で最も制限時の基準体重に近いものであった。また、試験開始から終了までの養分要求量(Hataらの方法にしたがって算出)において、DEは2,000~2,500Kcal/Day、TDNは500~600g/Day、CPは80~100g/Day、リジンは3.5~4.5g/Dayと推察した。高エネルギー飼料の摂取量は低く、低エネルギー飼料の増体より低下傾向を示すことから、不断給餌用飼料の質的制限法においては飼料の嗜好性と満腹感に影響するビートパルプの配合割合が大きな決定要因になるものと考えられる。このことによりミニ豚の成長段階における養分要求量の試算した。

18.

ラットのリンパ節と肝臓

渋谷一元
日本生物科学研究所
第42回 獣医病理学研修会

19.

Spontaneously occurring lesions in Laboratory rodents used in toxicity studies in Japan

Shibuya,K.
Nippon Institute for Biological Science
Symposium on Drugs,Food,Chemicals,Environmental Bioassay in Laboratory Animals(Taiwan)

Abstract:Evaluation of new drugs,agricultural agents,environmental and industrial chemicals and other agents is important to preserve human health and life.toxicological and carcinogenesis bioassays using laboratory animals are essential to evaluate safety of these chemicals.Toxicologic pathology is one of useful tools to investigate any effects of chemicals in the laboratory animals and contributes predominantly to the safety evaluation.For the precise pathological diagnosis of any changes observed in the laboratory animals,it is necessary to distinguish accurately whether the lesions are spontaneous or drug-induced changes.Therefore,it is important to characterize spontaneously occurring lesions in the laboratory animals used in the bioassays and to accumulate information about them as the control background data.Ⅰ present as follows:〔1〕Tumor incidences of Fischer 344/DuCrj (F344) rats in the control groups from carcinogenisity studies.〔2〕Comparison with tumor incidences of F344 rats between several facilities.〔3〕Tumor incidences and major causes of death of Crj:CD(SD)IGS(IGS) rats in 52- and 104-week carcinogenisity studies.〔4〕Comparison with tumor incidences of IGS rats between several facilities.〔5〕Tumor incidences of B6C3F1 mice in the control groups from carcinogenisity studies.〔6〕Several characteristic spontaneous lesions in the laboratory animals.

20.

IGSラットの甲状腺における神経節細胞様細胞の増殖を伴うC細胞腺腫

杉本加代子、渋谷一元、平井卓哉、布谷鉄夫
日本生物科学研究所
第18回 日本毒性病理学会

要旨:【はじめに】ラットにおける神経節細胞の腫瘍はまれであり、副腎髄質の褐色細胞腫との混合腫瘍および下垂体での発生が報告されている。一方、甲状腺におけるこの腫瘍の報告は、これまでSprague-Dawleyラットの1コロニーにおける報告しか見あたらない。今回、我々は老齢IGSラットの甲状腺C細胞腺腫組織内に神経節細胞(GC)様細胞の増殖巣を認めたので報告する。【材料および方法】本症例は、背景資料の収集を目的として長期飼育された109週齢のCrj:CD(SD)IGS雄ラットである。甲状腺は10%中性緩衝ホルマリンに固定後パラフィン包埋し、HE、グルメリウス法、PAS、クリューバーバレラ(KB)染色等の各種特殊染色を施した。さらに、カルシトニン、クロモグラニンA、S-100、Neuron-specific enolase(NSE)、シナプトフィジン、GFAPに対する抗体を用いて、免疫組織化学的に検索した。【成績およびまとめ】性状な濾胞上皮細胞の間に、好酸性細胞質と核仁明瞭な中~大型円計核を有する中型類円形細胞の胞巣状増殖巣が認められた。これら中型細胞は免疫染色において正常なC細胞と同様にカルシトニン陽性であり、同部位はC細胞腺腫と判断された。この腫瘍組織のなかに、明瞭な核仁を持つ偏在性の大型淡明核と豊富な弱好酸性細胞質を有する大型多極性細胞が増殖していた。これら大型細胞は、HE染色にて細胞質の中心がやや明るく、辺縁が好酸性から両染性に濃染する細胞質を有し、その部位はKB染色によりニッスル小体陽性を示していた。また、この大型細胞は免疫染色においてカルシトニン陰性、クロモグラニンA、NSEおよびシナプトフィジン陽性であった。以上の結果から本症例の甲状腺C細胞腺腫の組織内にGC様細胞が含まれることが示された。

21.

イヌヘルペスウイルスのベクター化と犬感染症ワクチン開発への応用

玄学南、西川義文、五十嵐郁男、長澤秀行、藤崎幸蔵、土屋耕太郎1)、大塚治城2)、見上彪3)
帯広大学原虫研、
1)日本生物科学研究所、2)東京大学農学部、3)日本大学生物資源科学部
第132回 日本獣医学会

要旨:多くの動物ヘルペスウイルスは、〔1〕遺伝子操作により弱毒化が比較的に容易であること、〔2〕外来遺伝子の許容サイズが大きいこと、〔3〕生体内で外来遺伝子を長期に亘って持続的に発現できることなどの特徴を持っているために、そのベクター化が期待されている。我々は、イヌヘルペスウイルス(CHV)のベクター化と犬感染症ワクチン開発への応用を試みてきたので、その概略を報告する。CHVのTK遺伝子を含む6.5kbp断片をpUC19にクローニングし、TKのORFを欠損させた後にMCSを挿入し、トランスファーベクターpCTK/MCSを構築した。pCTK/MCSにLacZ遺伝子とネコヘルペスウイルス1型TK(FTK)遺伝子発現ユニットをタンデムに挿入し、pCTK/LacZ-FTKを得た。pCTK/LacZ-FTKとCHVをMDCK細胞に導入し、相同組換えによりLacZ-FTKを発現する組換えウイルスCHVdlTK/LacZ-FTKを得た。CHVdlTK/LacZ-FTKはX-gal染色でブルーのプラークを形成し、またIDU・AraTなど抗ヘルペスウイルス薬剤に高度感受性であることが確認された。CHVdlTK/LacZ-FTKと外来抗原遺伝子を挿入したpCTK/MCSをMDCK細胞に導入後、IDU或いはAraTにて薬剤セレクションを行うと相同組換えによりLacZ-FTKが外来抗原遺伝子に置き換えられた新しい組換えウイルスとFTKの変異ウイルスのみが生き残るが、前者はホワイトプラーク(LacZ-,FTK-)を、また、後者はブループラーク(LacZ+,FTK-)を形成するために、両者は簡単に区別できる。この方法を用いて狂犬病ウイルスのG、イヌジステンパーウイルスのFとH、イヌパルボウイルスVP2、ネオスポラ原虫のSRS2とSAG1などの数多くの外来抗原遺伝子を発現する組換えCHVの作製に成功した。これらの組換えウイルスのワクチン効果等についても考察する。

22.

野性アナグマの膵臓にみられた重度の寄生虫感染症

柴田明子、森田達志、春田憲一、池和憲、今井壮一、神田栄次1)、布谷鉄夫2)
日本獣医畜産大学獣医寄生虫学教室、
1)東京野生生物研究所、2)日本生物科学研究所
第132回 日本獣医学会

要旨:東京都内で収容されたアナグマの多数例において膵臓に腫瘤の形成と多数の線虫寄生がみられ、寄生虫学的および病理学的検索を行ったので以下に報告する。【材料および方法】H12年からH13年にかけて東京都西多摩地域の3市1町で収容されたアナグマの斃死体15頭について検索を行った。剖検時、膵臓を中心に内部諸器官における異常の有無を観察し、内7頭については病理組織学的検査を実施した。また、膵臓から寄生虫体を採取し70%エタノールで固定後、ラクトフェノールで透過し光学顕微鏡下で形態の観察を行った。【結果】全頭の膵臓より線虫が分離され、寄生数は多いものでは300隻をこえるものもあった。虫体の口腔はカップ状で2対の歯板を有し、頚部に1対の乳頭突起を有した。これらの形態学的特徴から本虫はTetragomphius属線虫であると同定した。虫体は拡張した膵管に、しばしば砂粒状物と共に存在した。空洞周囲は肉芽組織が高度に増殖し、小指頭大からピンポン玉大の腫瘤を形成していた。腫瘤部の組織検査では、膵管の著しい拡大と膵管上皮の破壊、膵管周囲における線維性結合組織の著しい増殖が見られ、膵管壁管腔側に一部好中球を含む形質細胞の強い浸潤を伴っていた。膵組織は腫瘤部周囲で部分的に萎縮、消失していたが、他の領域ではほぼ正常に保たれていた。【まとめ】今回、生息域の重複が少ない広範囲における多数例に感染が見られた事により、自然界において本属の寄生虫感染がかなり高率である可能性が示唆された。膵臓に認められた腫瘤は、慢性的な寄生の結果形成されたものと思われた。これらの膵臓病変にもかかわらず、削痩などの栄養状態の不良を示唆する所見はみられず、本虫寄生による宿主への影響は比較的小さいものと思われた。 

23.

ウエスタンブロッティングを用いたアクチノバシラス・プルロニューモニエ・RTX細胞毒素(APX)に対する抗体測定法-汚染農場における移行抗体の測定

長井伸也、八木橋武
日本生物科学研究所
第131回 日本獣医学会

要旨:【目的】アクチノバシラス・プルロニューモニエRTX細胞毒素(Apx)は本菌の主要な病原因子である。その抗体測定が困難であることから、野外豚における抗体調査は十分行われていない。そこで今回新たな抗体測定法を開発し、汚染農場における移行抗体の推移を調査した。【材料と方法】Apx抗体の測定:組換え大腸菌で発現させ、部分精製したApxⅠおよびⅢタンパクを抗原に用いたWB法。出現したバンドの濃さを画像解析により数値化した。1、2及び5型菌体由来血清型特異抗原に対する抗体測定:第129回本学会において報告したELISAサンドイッチ法。被検血清:Ap1または2型の実験感染経過豚血清、ならびにAp1、2及び5型菌の複合汚染が疑われる農場由来の母豚20頭とその産子80頭の血清。【結果】〔1〕1型実験感染経過血清ではApxⅠのみ、2型実験感染経過血清ではApxⅢのみに陽性反応がみられ、本抗体測定法の特異性が確認された。〔2〕Ap汚染農場由来の母豚および産子(30日齢)の抗体を調査したところ、菌体抗原に対しては産歴とともに抗体価が低下する傾向にあったが、Apxに対しては常に高い値を示した。産子における移行抗体は、菌体抗原に対しては約30日齢で消失したが、Apxに対しては70日齢以降まで持続した。【まとめ】今回の調査により、Ap汚染農場では菌体抗体に比べてApx抗体は長期に持続することが判明した。現在広く用いられているApxを含むワクチンは毒素に対する移行抗体の影響を受けやすいため、各農場において最適なワクチンプログラムを設定する上で、本抗体測定方法が利用可能であると思われた。

24.

実験用ビーグル犬にみられた一側性眼球低色素症

渋谷一元、平井卓哉、佐藤一雄、杉本加代子、布谷鉄夫
日本生物科学研究所
第21回比較眼科学会

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