研究成果03

口頭発表

口頭発表2005年(平成17年)

1.

中国新疆ウイグル自治区における家畜の各種リケッチア感染状況調査

猪熊壽1)、巴音査汗2)、簡子健2)、玄学南3)、佐藤雪太4)、壁谷英則4)、土屋耕太郎5)
坂本和仁1)、奥田優1)、見上彪4)、丸山総一4)
1)山口大・農学部、2) 新疆農業大学、3) 帯畜大・原虫病研究センター、
4)
日大・生物資源科学部、5) 日本生物科学研究所
第139回 日本獣医学会(2005年)
要旨:【はじめに】中国は地理的にわが国の防疫上重要な隣国であるが、極めて広大な国土を有するため、全国的な感染症発生状況等は把握されていない。とくに新疆ウイグル自治区は畜産業を基幹とする中国最大の省であるが、人と動物の共通感染症に関しては知見が少なく、リケッチア性疾患ついてはほとんど実態が不明である。そこで新疆ウイグル自治区の各種リケッチア感染状況を把握するため各種家畜の血清学的検索を行った。【材料と方法】新疆ウイグル自治区のウシ146頭、ヤギ133頭、ヒツジ134頭、ウマ85頭、ロバ93頭、ブタ30頭の血清を材料に、免疫蛍光抗体法によりエールリッヒア4種Anaplasma phagocytophilum、Ehrlichia chaffeensis、Ehrlichia canis、Neorickettsia ristici、および紅斑熱群リケッチア1種Rickettsia japonicaに対する抗体を検索した。【結果と考察】ウシ23頭(15.8%)、ヤギ6頭(4.5%)、ヒツジ29頭(21.6%)、ロバ1頭(1.1%)が、いずれかのエールリッヒアと抗体価20倍以上で反応を示した。ウシとヒツジでは320倍以上の高い抗体価を示すものも確認されたが、ウマとブタでは反応するものはなかった。いっぽう、R.japonicaに対してはウシ9頭(6.2%)、ヤギ15頭(11.3%)、ヒツジ8頭(6.0%)、ウマ3頭(3.5%)、ロバ1頭(1.1%)が抗体価20倍以上で反応したが、極端に高い抗体価を示すものはなかった。今回の調査により、リケッチア性病原体が新疆ウイグル地区の家畜に感染していることが示唆されたが、これらの病原体は地理的変異が大きく、陽性検体は今回抗原として用いた病原体の近縁種に感染している可能性も否定できないため、今後分子生物学的な検索が必要と考えられた。

2.

中国新疆地域におけるウマ・ロババベシア原虫感染症の疫学調査

玄学南1)、 五十嵐郁男1)、巴音査汗2)、簡子健2)、猪熊壽3)、土屋耕太郎4)、森田幸雄5)
佐藤雪太6)、壁谷英則6)、森友忠昭6)、見上彪6)、丸山総一6)
1) 帯畜大・原虫研、2) 新疆農大、3) 山口大・農学部、4) 日本生物科学研究所、5) 群馬県庁、
6) 日大・生物資源
第139回 日本獣医学会(2005年)
要旨:【はじめに】新疆ウイグル自治区は畜産業を基幹産業とする中国で最大の省(全国土面積の約1/6を占める)である。地理的にはユーラシア大陸の中央に位置し、モンゴル、ロシア、インド、パキスタン、カザフスタン、タジキスタン、キルギス、アフガニスタンなど計8ケ国と国境を接している。中国西部地域及び中央アジアにおける動物住血原虫感染症の疫学調査の一環として新疆地域のウマ・ロババベシア原虫感染症の疫学調査を行った。【材料と方法】新疆ウイグル自治区の北部に位置するアルタイ地区、西北部に位置するイリ地区及び西部に位置するカシュガル地区から計155頭のウマ血清と93頭のロバ血清を採集し、バベシア原虫抗体検索に供試した。B.equiに対する抗体測定には組換えEMA2を抗原としたELISA法を、また、B.caballiに対する抗体測定には組換えBC48を抗原としたELISA法を用いた。【結果と考察】ウマのB.equiとB.caballi抗体陽性率はそれぞれ58.7%と58.0%であった。また、ロバのB.equiとB.caballi抗体陽性率はそれぞれ9.6%と38.7%であった。ウマの感染率がロバの感染率より高いのは、前者が後者より放牧される機会が多いことにも起因すると考えられた。これらの結果より、ウマ・ロババベシア感染症が新疆地域に広く浸潤・蔓延していることが示唆された。

3.

Eimeria brunettiの浸潤状況調査と病原性試験

川原史也、大永博資、長井伸也
日本生物科学研究所 
第140回 日本獣医学会(2005年)
要旨:【緒言】Eimeria brunetti (Eb) は、従来、わが国にはほとんど浸潤がないとされていた。今回、国内の種鶏場における調査から、本原虫の浸潤が拡大している傾向が示されたので報告する。【材料と方法】2004年から2005年にかけて、国内7カ所の種鶏場から採取した糞便材料を検査した。常法によりオーシストを分離し、Eb特異的PCR法により同定を行なった。病原性試験には、1群10羽の3週齢SPF鶏を用い、1羽あたり3×104個(低用量)または3×105個(高用量)の分離株オーシストを投与し、8日間臨床症状を観察した。投与後8日に剖検し、腸管の肉眼病変を観察し、一部は病理組織学的検査も行なった。【結果】調査した野外の種鶏場7農場のうち、5農場がEb陽性であった。感染実験では両投与量群とも、投与後4日から8日に血液を混じた水様~粘液状の下痢を呈し、低用量群で1羽、高用量群で2羽が死亡した。糞便中のオーシスト数は、投与後7日をピークとし、両群とも約3×105個/gであった。投与後7日間における平均増体率では、非投与対照群を1とした時、低用量群で0.22、高用量群で-0.13と、顕著な増体の低下が認められた。腸管の病理組織学的検査において、回腸、盲腸および直腸の粘膜上皮内でEbが多量に増殖した像が観察された。【考察】今回、Ebが高率に分離されたことから、わが国において本原虫の浸潤が拡大傾向にあることが明らかになった。Ebは鶏に対して強い病原性を示した。このことから、今後、わが国の鶏コクシジウム症における本原虫の病原学的意義が注目されるところである。

4.

馬ピロプラズマ病抗体測定用ELISAの評価

安斉了1)、五十嵐郁男2)、土屋耕太郎3)、片山芳也1)、衛藤真理子4)、杉本千尋2)、熊田健5)
神尾次彦6)、明石博臣7)
1) JRA・総研・栃木支所、2) 帯畜大・原虫研、3) 日本生物科学研究所、4)動物検疫所、
5) 動薬検、6) 動衛研・原虫病、7) 東大・獣医微生物
第140回 日本獣医学会(2005年)
要旨:【目的】馬ピロプラズマ病(T.equiおよびB.caballi感染症)の血清診断法については、OIEマニュアルに「国際取引に指定された方法」としてCFとIFAが記載され、わが国の輸入検査ではCFが用いられているが、CF抗原は馬に原虫を接種して作製しなければならず、多大な経費を要する。本研究では、わが国で開発された複数のELISA法について比較試験を行い、CFやIFAのスクリーニング検査としての実用性を評価した。【方法】血清には、非感染馬血清195検体、実験感染馬経過とその希釈血清374検体および輸入検疫摘発馬血清35検体の計604検体を供試した。T.equi抗体の測定には、EMA-1 ELISA、EMA-2 ELISAおよびEMA-2 ELISAの反復性と検出感度(OD値)を改良したEMA-2 ELISA変法の3種類のELISA法ならびにCFとIFAを用いた。B.caballi抗体の測定には、dNF4 ELISA、peptide#19 ELISA、P48 ELISAおよびP48 ELISAの反復性を改良したP48 ELISA変法の4種類のELISA法ならびにCFとIFAを用いた。【結果】T.equi抗体測定ELISAでは、EMA-2 ELISAが最も診断感度と特異性に優れた方法であった。EMA-2 ELISA変法もオリジナル法に比べ僅かに診断感度の低下が認められただけであった。B.caballi抗体測定ELISAでは、P48 ELISAとその変法が最も診断感度と特異性に優れた方法であった。結論として、EMA-2 ELISA、P48 ELISAおよびそれらの変法は、輸入検疫におけるCFもしくはIFAのスクリーニング検査に用いることが可能と考えられた。

5.

豚丹毒菌各血清型及びその他のエリシペロトリックス属菌由来、表層防御抗原の配列比較

TO HO、長井伸也
日本生物科学研究所
第140回 日本獣医学会(2005年)
要旨:【緒言】豚丹毒菌(Er)は、菌体表面に分子量65-70kDaの防御抗原(Spa)をもつことが知られている。SpaはErの16血清型のうち11に存在するが、残りの5血清型については不明であった。本研究では、すべてのEr血清型と、これに加えてその他のエリシペロトリックス属菌(血清型18)にSpaが存在することを見出し、その配列比較から、Spaを3つのバリアントグループに分類した。【材料と方法】Er各血清型参照株から、種々のプライマーを用いてspa遺伝子をPCR増幅し、クローニング後、全塩基配列を決定した。予測されるアミノ酸配列から、各血清型由来Spaタンパクの構造を比較・解析した。【結果】推定アミノ酸配列より、血清型5、8、12、15、16、17及びN由来のSpaは、既報にある血清型1a、1b及び2型のSpaAと95%以上の相同性を示した。血清型4、6、11、19及び21由来のSpaはSpaAと60%程度の相同性しか示さないものの、互いには95%以上の高い相同性を示した(SpaB)。その他のエリシペロトリックス属菌種である血清型18由来のSpaは、SpaA及びSpaBに対して、いずれも60%程度の低い相同性しか示さなかった(SpaC)。【考察】Er及びその他のエリシペロトリックス属菌には、三種類のSpaバリアントグループが存在することが明らかになった。各Spaを機能ドメイン別に解析したところ、N末端近傍のシグナル領域及びC末端近傍のリピートユニットでは各分子間での相同性は高度であった。一方、防御抗原性に関与するとされる中間領域の相同性は低く、各Spaの感染防御効果に差があることが示唆された。

6.

その他のエリシペロトリックス属菌由来表層防御抗原(SpaC)の免疫原性

TO HO、染野修一、長井伸也
日本生物科学研究所
第140回 日本獣医学会(2005年)
要旨:【緒言】先に、豚丹毒菌(Er)の表層防御抗原(Spa)が3つのバリアントグループに分かれることを報告した。そこで、どのSpaがワクチンの成分として適しているか調べるため、組換え大腸菌により発現した各Spaタンパクを免疫し、Erの攻撃に対する防御効果を調べた。【材料と方法】1.マウスを用いた交差防御試験:40μgのSpaA、BまたはCタンパクでそれぞれ2回免疫し、各免疫マウスをEr血清型1a、2、6及び18菌で攻撃を行い、交差防御効果を調べた。2.SpaC由来C末端領域欠損タンパク(SpaC△C)の免疫原性:大腸菌における発現効率を上昇させる目的で、SpaC△Cタンパクを作出し、その免疫原性をマウス及び豚で調べた。マウスでは40μgのSpaC△Cで2回免疫し、Er血清型1a、6及び18菌で攻撃を行った。豚では200μgのSpaC△Cで2回免疫し、Er血清型1a菌で攻撃を行い、生死及び豚丹毒菌の発症抑制程度から防御効果を調べた。【結果】マウスを用いた交差防御試験により、その他のエリシペロトリックス属菌(血清型18)由来のSpaCが、最も高度な交差防御効果をもつことが判明した。SpaC全長のタンパクの大腸菌における発現量は低かったが、C末端から238アミノ酸を欠失させたSpaC△Cタンパクの発現量は高度であった。マウス及び豚における攻撃試験成績から、SpaC△Cタンパクは、全長のSpaCと同等以上の感染防御効果を示すことが明らかになった。【考察】今回作出したSpaC△Cタンパクは大腸菌内で良好に発現し、これを免疫した豚ではEr強毒株の攻撃に対して高度な防御効果を示したことから、Er対策用ワクチンの成分として有用であると考えられた。

7.

分子量の異なるIA-2βの切断部位および細胞内局在の解析

竹山夏実、川上登美子1)、佐伯圭一1)、松本芳嗣1)、小野寺節1)
日本生物科学研究所、1) 東大・院農・応用免疫
第140回 日本獣医学会(2005年)
要旨:【背景・目的】IA-2βは、蛋白チロシン脱リン酸化酵素ファミリーに分類される膜一回貫通型蛋白質である。膵島β細胞のインスリン分泌顆粒膜に存在し、インスリン分泌に関与している。マウスIA-2βは、アミノ酸部位413-414において切断され、60kDaで発現する分子と考えられている。しかし演者らは、マウス脳において60kDa以外にも64, 71kDaのIA-2βが存在することを明らかにし、第136回獣医学会で発表した。3つのIA-2βを分子量に従いIA-2β60, IA-2β64, IA-2β71とし、本研究ではこれら分子量の異なるIA-2βが生じる原因を明らかにすることを目的とした。【材料・方法】マウス脳に発現するIA-2β60, IA-2β64, IA-2β71および膵島β細胞株MIN6のIA-2β60を免疫沈降法により精製し、エドマン法を用いてN末端アミノ酸配列を決定した。また、ショ糖密度勾配遠心法により細胞内小器官を分画し、分泌顆粒マーカーIA-2、シナプス顆粒マーカーsynaptophysinを用いてIA-2βが存在する細胞内小器官を推定した。【結果・考察】マウス脳IA-2β71, IA-2β64, IA-2β60のN末端アミノ酸5残基は、SEQPE, APELW, EVQPSであり、それぞれアミノ酸414, 464, 489からの配列に一致した。また、MIN6のIA-2β60のN末端は、脳のIA-2β60と同一アミノ酸489であった。413-414で切断される分子はIA-2β60ではなくIA-2β71であることが初めて明らかになった。マウス脳組織のショ糖密度勾配遠心法によりIA-2β60はシナプス顆粒画分に、IA-2β71, IA-2β64は分泌顆粒画分に分画された。このことから、IA-2βは分子量に応じて2つの異なる調節性分泌顆粒膜に存在し、機能する分子であることが示唆された。また、これらの調節性分泌顆粒が有する切断酵素の種類により、IA-2βが異なる切断を受けると考えられた。

8.

体細胞クローンミニブタの効率的作出法の確立

Efficient production of cloned miniature pigs.
黒目麻由子1)、石川孝之2)、富井亮1)、比留間克己1)、上野智1), 齋藤仁1)、坂本裕二2)
新海久夫2)、矢澤肇2)、近藤亮1)、田中千陽1)、大塚貴1)、長嶋比呂志1)
1) 明大農、2) 日本生物科学研究所
第98回 日本繁殖生物学会大会(2005年)
要旨:【目的】遺伝的背景の斉一なクローンミニブタの医学・薬学領域研究への応用に期待がもたれる。本研究は、家畜ブタの体細胞核移植技術をミニブタに適用するための条件設立並びに、クローンミニブタの効率的生産法の確立を目的とした。【方法】屠場由来卵巣より採取した卵を体外成熟しレシピエント卵子を作製した。ミニブタ胎仔(NIBS系雄雌)由来の初代培養繊維芽細胞を核ドナー細胞に用いた。核移植には電気融合法を用い、移植後1~1.5時間に電気的活性化刺激を加えた。胚移植のレシピエントには妊娠雌を用いた。妊娠25~40日齢の個体に0.3mg合成PGF2αと250 IU eCGを投与し発情同期化を行った。[実験1]単為発生卵を発情同期化条件の異なるレシピエントに移植し、受胎の有無を調べた。hCG投与後2日目(day1) および3日目(day2)のレシピエントブタに活性化後1日目および2日目の胚を移植し、22日後に胎仔を確認した。[実験2]核移植胚の体外発生能および移植後のクローン産仔への発達を調べた。【結果】[実験1]1日目胚/day1レシピエント、2日目胚/day1レシピエント、2日目胚/day2レシピエントといういずれの条件においても受胎が成立した。移植胚の胎仔への発達率は15~27%(6/40~15/56)であった。[実験2]核移植胚の胚盤胞への発達率は、雌雄の核ドナー細胞それぞれについて13.6% (9/66)および14.3% (14/98)であった。また、合計11頭のレシピエントに、それぞれ60~110個の核移植胚を移植した結果、8頭(73%)が妊娠し、合計14頭(1.4% 14/1021)のクローン産仔が得られた。本研究で確立した方法により高効率でクローンミニブタの作出が可能であることが示された。

9.

キニジンの血漿中での動態

"Kinetics of quinidine in plasma
北条隆男、斎藤敏樹
日本生物科学研究所
第32回トキシコロジー学会学術年会(2005年)
要旨:【背景と目的】一般に薬物は血漿タンパクに結合していない遊離型だけが組織間を移行し、薬効や毒性に関与する。したがって、血漿中での薬物の遊離型濃度の把握は非常に重要である。多くの薬物はアルブミンに結合しやすいが、塩基性薬物の中にはalpha-1 acid glycoprotein(AGP)に強く結合するものがある。AGPは容量が小さく感染症や炎症などにより血中濃度が増加することが知られている。よって、その変化がAGPに高親和性の薬物の動態に大きく影響する可能性がある。今回、塩基性薬物としてquinidine(QN)を選択し、数種の動物を用いてQNの血漿中動態と血漿中AGP濃度との関連を調べた。【方法】血漿中に既知の濃度のQNを添加し、限外濾過法により遊離型濃度をHPLCで測定した。結合型濃度は算出した。【結果と考察】Scatchard plotsの結果、どの動物種においても結合型濃度と遊離型にたいする結合型の比の関係は2相性を示した。非線形最小二乗法により結合動態パラメーターを求め、血漿中QNの動態をシミュレーションした。その結果、QNの動態は種によって大きく異なることが示された。さらに、AGP濃度を変化させた場合、遊離型濃度の変化も動態種により異なることが示された。よって、AGPに親和性の高い薬物において、動物種間の薬効、毒性を比較する際、血漿中総濃度のみを考慮するとその評価を誤る可能性があることが考えられた。

10.

キメラを介した筋ジストロフィー症ニワトリ再生の試み

Production of Chimeric Chickens Containing Muscular Dystrophy Genes by Embryo Engineering
藤原哲1),2)、水谷誠1)、上田進1)、布谷鉄夫1)、小野珠乙2)、鏡味裕2)
1) 日本生物科学研究所実験動物部、2) 信州大学農学部
第52回 日本実験動物学会総会(2005年)
要旨:【目的】ニワトリ筋ジストロフィーは40年以上前からその存在が知られている。いくつかのニワトリ筋ジストロフィー発症系が確立され、その系の一つにNew Hampshire種の413系(NH-413)と呼ばれる系が存在する。現在、NH-413系は福山型筋ジストロフィーに相当すると考えられているが、分子生物学的手法による疾患遺伝子の同定は未だ明らかにされていない。そこで、我々は、(財)日本生物科学研究所で確立された白色レグホン(L-M系)とNH-413系を用いてキメラを作成し、筋ジストロフィー症ニワトリの発生遺伝子工学的作出を試みた。【材料及び方法】材料には白色レグホン受精卵(L-M系)をレシピエントとし、NH-413系受精卵(筋ジストロフィー症)をドナーとした。作出方法としては、レシピエント受精卵にUV照射後、胚盤葉明域中央部の一部を取り除いた後、そこへドナー細胞(胚盤葉明域中央部)を移植し、キメラを作出した。作出したキメラのうちドナー由来の表現型(羽毛色)を発現している個体をキメラと判定した。【結果】作出したキメラ個体は、孵化直後表現型および行動による判定は困難であった。しかし、孵化後4日齢以降羽装に変化が認められ、2週齢頃には首を傾ける行動、片側の羽が挙がりにくいなどの行動異常が認められた。以後、観察を進めたがその他顕著な行動異常は認められなかった。NH-413系のように羽が硬直するといった症状(フリップテスト陽性)は現れなかったが、行動異常は現在も認められている。【考察】今回の実験では、外観によるニワトリ筋ジストロフィー症の発症は認められなかった。しかし、行動異常を示したことから筋ジストロフィー遺伝子の関与が考えられた。そこで、NH-413系との人工授精を行ない、後代から筋ジストロフィー症を発症する個体の作出を試みている。もし、後代に筋ジストロフィーを示す個体が出現したならば、新たな実験動物生産法として有用ではないかと示唆される。

11.

発生工学的手法を用いた筋ジストロフィー症ニワトリの再生

藤原哲1),2)、小野珠乙2)、鏡味裕2)
1) 日本生物科学研究所実験動物部、 2) 信州大学農学部
日本畜産学会 第105回大会(2005年)
要旨:【目的】ニワトリ筋ジストロフィーは40年以上前からその存在が知られており、今までに多くのニワトリ筋ジストロフィー発症系が確立されてきた。その一つにNew Hampshire種の413系(NH-413)と呼ばれる筋ジストロフィー発症系が存在する。現在、NH-413系は候補として福山型筋ジストロフィーを発症するということが判明している。しかし、分子生物学的手法による筋ジストロフィー遺伝子の同定は現在に至るも明らかにされていない。そこで、我々は、(財)日本生物科学研究所で確立された白色レグホン(L-M系)とNH-413系を用いてキメラを作成し、筋ジストロフィー症ニワトリの発生工学的作出を試みた。【材料及び方法】材料には白色レグホン受精卵(L-M系)をレシピエントとし、NH-413系受精卵(筋ジストロフィー症系)をドナーとした。レシピエント受精卵の胚盤葉明域中央部の一部を物理的に除去後、そこへドナーより採取した胚盤葉明域中央部細胞をインジェクションし、NH-413系由来のキメラニワトリを作出した。作出したキメラのうちドナー由来の表現型(羽毛色)を発している個体をキメラとした。また、NH-413系と作出キメラの人工授精を行った。【結果】孵化直後のキメラ個体は、表現型、行動による筋ジストロフィー症発症などの特性は確認できなかった。しかし、孵化後4日齢以降羽装にドナー由来の羽装が認められ、2週齢頃には首を傾ける行動、片側の羽が挙がりにくいといった行動異常が確認できた。その後、観察を継続したが顕著な行動異常は確認できなかった。NH-413系のように羽が硬直するといった症状(フリップテスト陽性)は出現しなかったが、行動異常は現在も続いている。また、NH-413系と作出キメラの人工授精後の雛は、すべてドナー由来の羽装を確認できた。【考察】今回の研究では、作出キメラニワトリにおいて筋ジストロフィー症の発症は確認できなかったが、行動異常を示したことから筋ジストロフィー遺伝子の関与が考えられた。また、後代から筋ジストロフィー症を発症する個体の作出を試みたところ、全ての雛においてドナー由来の羽装を示したものの、筋ジストロフィーの発症は、現在のところ確認できていない。今後、表現型と筋ジストロフィー遺伝子の関連性を詳細に分析する必要がある。

12.

mRNA expression of estrogen receptor α and β, cytochrome P450 17αhydroxylase, cytochrome P450 aromatase, anti-Mullerian hormone, and androgen receptor in developing gonads of Japanese quail

Nakamura,K.1), Shibuya,K.1), Saitou,N.2), Shimada,K.2), Hirai,T.1) and Nunoya,T.1)
1) Nippon Institute for Biological Science,2)Laboratory of Animal Physiology, Graduate School of Bioagricultural Sciences, Nagoya University.
The 8th annual meeting of Japan Society Endocrine Disrupters Researc (2005)
Abstract:Adverse effects of endocrine disrupting chemicals (EDCs) in wildlife species and humans have attracted considerable attention during recent years. However, there have been few studies on physiological mechanisms of the effects of EDCs in birds. Certain birds are top of predators in marine and limnic environments and these oviparous species have the potential of high sensitivity to environmental pollutants because of their unique sexual differentiation and reproduction system. Japanese quail (Coturnix japonica) is recommended as the preferred test species in avian reproduction tests by US EPA and OECD. However, there are few reports on the molecular biological profiles during the development and differentiation of gonads in Japanese quail. Therefore, before establishing the assessment of EDC impact in quail, the basic study on the molecular profiles seems essential in relation to embryonic and posthatching quail. In the present study, we investigated mRNA expression of sex hormone and steroidogenic enzymes in developing gonads of Japanese quail. The left gonads of male and female Japanese quail (WE strain) were collected at 16 days of incubation and 3, 7 and 14 days after hatching and used in the study. mRNA levels of cytochrome P450 17αhydroxylase (P450c17), cytochrome P450 aromatase (P450arom), anti-Mullerian hormone (AMH), estrogen receptor (ER) α, β, and androgen receptor (AR) in the gonads were assessed using real time PCR. Specific primers for each gene were designed according to their mRNA sequences of Japanese quail. P450c17 mRNA expression in both male and female gonads increased from 16 days of incubation to 14 days after hatching. P450arom mRNA expression in females was markedly higher than that in males at 16 days of incubation and 3, 7 and 14 days after hatching. AMH mRNA expression in males was significantly higher than that in females at 16 days of incubation, whereas the expression in males decreased after hatching. ERα mRNA was highly expressed not only in females but also in males at 16 days of incubation. ERβ mRNA expression in females was higher than that in males at 16 days of incubation and 3, 7 and 14 days after hatching. There were no specific changes of AR mRNA expression in male or female gonads during observation periods. These results characterized mRNA expression of P450c17, P450arom, AMH, ERα, β, and AR in the developing gonads of Japanese quail. These observations may provide basic information for establishing the assessment method of EDC impact in Japanese quail.

13.

プリオン蛋白質に対する新規抗体の作製と、クロイツフェルト・ヤコブ病患者材料に対する反応性

土屋耕太郎1)、上田進1)、小野寺節2)
1) 日本生物科学研究所、2) 東大・院農・応用免疫
第53回 日本ウイルス学会学術集会(2005年)
要旨:【目的と意義】非定型BSEの出現や、様々なクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)の出現、さらに肥飼料原料の安全性確保のための残存PrPscの検出などに対応するには、新規抗体の充実を図る必要が有る。本研究では、以前に作製された牛PrP特異抗体について、新たに、2型CJD蛋白質の識別を行なったので、その内容を報告する。[材料と方法] 大腸菌で発現させた牛PrPあるいは合成ペプチドをプリオン遺伝子欠損マウスに免疫し、モノクロ-ナル抗体(mAb)を作製した。抗体の特異性を検討するために、株化マウス神経細胞(Hw3.5)及びプリオン遺伝子欠損マウス神経細胞株(HpL3-4)に対する反応性を間接蛍光抗体法により検討した。また、各抗体のヒト材料に対する反応性を、ウェスタンブロッティング法(WB)及び免疫組織化学法により検討した。[結果と考察] 各mAbのマウス細胞株に対する反応性を検査したところ、6C4、4B5、6G3-2、2B11では、Hw3.5細胞質内に顆粒状にPrPの分布が観察された。それに対し、T2は主として細胞膜に、1D12は核内に抗原の分布が観察された。またこれらの蛍光はHpL3-4細胞では観察されなかった事より、特異的な蛍光抗体反応性と考えられた。一方これらのモノクロ-ナル抗体について、ヒトPrPに対する反応性も観察した。特にconformational epitopeを認識すると考えられる2つの抗体(T2、6C4)について、詳細に検討した。T2、6C4とも、既知の抗体8C6と同様に、1型CJD脳材料では、WBで強度に反応した。また、免疫組織化学では、顆粒状(synapsis type)に、染色が観察された。これに対し、2型CJD材料では、WBでは同様の反応性が見られたが、免疫組織化学では、クール-斑に反応性の差が観察された。2型CJD(Met/Val 124)において、T2、8C6は、クール-斑全体に一様な染色が見られた。これに対し、6C4は、クール-斑の外殻に強い染色像が見られたが、内部coreは陰性の染色像を示した。抗体の種類によりPrPscの染色像が異なる事は、PrPcからPrPscへの変換が、multiple stepである事を示唆している。[謝辞] 本研究は、以下の非学会共同研究員の協力による。細川 朋子、竹山 夏実、佐藤 一郎(日本生物科学研究所)、田川 裕一(動物衛生研究所)、Gianluigi Zanusso(べロナ大学、イタリア)、Andreina Baj、Antonio Toniolo(インスブリア大学、イタリア)

14.

Distinct reactivity of novel monoclonal antibodies with abnormal prion protein of Creutzfeldt-Jakob disease and bovine spongiform encephalopathy

Tomoko Hosokawa1), Kotaro Tuchiya1), Natsumi Takeyama1), Susumu Ueda1),
Yuichi Tagawa2), Kumiko M Kimura2), Gianluigi Zanusso4), Cristina Casalone5),
Maria Caramelli5), Andreina Baj6), Antonio Toniolo6), Takashi Onodera3)
1) 日生研,2) 動衛研,3) 東京大,4) Univ. of Verona,5) Inst. Zooprofilattico Sperimentale,
6)
Univ. of Insubria
Dominique Dormont International Conference(2005年)
Abstract:Monoclonal antibodies (mAbs) that recognize different epitopes of bovine PrPc have been produced by immunizing Prnp-knockout mice with synthetic polypeptides. mAbs were preliminarily characterized by immunofluorescent staining of murine neuronal cell lines (both from wild type and Prnp-knockout mice). Two mAbs recognizing conformational epitopes failed to stain PrPc in acetone-fixed cell monolayers. Subsequently, mAbs reactivity was compared by immunohistochemistry using formic acid pre-treated brain tissue sections from scrapie-infected mice (Sc-mouse), scrapie-infected sheep (Sc-sheep), BSE, and CJD cases. All mAbs recognized abnormal (PrPres) isoforms in murine, ovine, bovine, and human brain tissue. Two mAbs (one of them recognizing a conformational epitope) reacted strongly with PrPres isoforms from all the above species. Of particular interest was that mAb T2 and mAb 6C4 reacted differently with kuru-type spherical plaques in the cerebellum of a type-2 CJD case (codon 129 Met/Val genotype). The plaque staining pattern was peripheral for T2 and central for 6C4. Both mAbs produced synaptic type staining in brain samples from a type-1 CJD case. Diffuse fine deposition around residual neurons was also seen in the affected cortex. In BSE-affected brains, diffuse PrP staining of the neuropile was produced by both T2 and 6C4. The distinctive staining properties of these two mAbs may help recognize intermediates in the conversion of PrPc to PrPres.

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