1. |
家畜におけるサルモネラ症とその対策
永野哲司
日本生物科学研究所
第141回 日本獣医学会(2006年)
要旨:家畜伝染病予防法により届出伝染病に指定されているウシ、ブタ及びニワトリのサルモネラ症は、ウシではSalmonella Typhimurium及びS.Dublin、ブタではS.Choleraesuis及びS.Typhimurium、ニワトリではS.Enteritidis及びS.Typhimuriumを主原因とする。また、それ以外の血清型を原因とした症例の発生報告も少なくない。家畜にサルモネラ症を引き起こす血清型の多くは、ヒトの急性胃腸炎事例からも分離されていることから、肉や卵などの畜産食品のサルモネラ汚染とヒトのサルモネラ症との関係が、公衆衛生上重要な問題として提起されてきた。すなわち、家畜のサルモネラ感染は、生産性に影響を与える家畜疾病としてのみならず、食品である畜産物の安全・安心にかかわる重要な関心事項にもなっている。家畜衛生週報にある届出伝染病発生調査によると、2004年の家畜のサルモネラ症の発生は、ウシで93戸530頭、ブタでは68戸403頭、ニワトリでは4戸59羽であった。しかしながら、これらは有症の発生事例の届出数であり、不顕性感染事例は含まれない。実際にはどれほど存在するか想像もつかないサルモネラに不顕性感染した動物は、他の個体への感染源となって汚染を拡大するだけでなく、生産される畜産物に菌が付着することによって食品汚染の原因ともなる。従って、家畜のサルモネラ感染対策においては、顕性感染の発生の制御はもちろんのことながら、不顕性に感染している保菌動物に対する対策もこれに勝るとも劣らず重要な課題である。
家畜のサルモネラ症対策として、一般的に抗生物質の投与が行われるが、多用すると耐性菌の出現を誘発するという問題もあり、不用意に投与することは避けるべきである。さらに、保菌動物の摘発・隔離・淘汰、環境の徹底した洗浄・消毒といった衛生対策の向上により農場の清浄化を目指す必要があるが、一度サルモネラが侵入すると一般的な衛生対策のみで完全に菌を排除することは極めて困難とされている。
そのため、対策の基本は、まず第一に農場に菌を侵襲させないことである。すなわち、導入する動物の検疫、畜舎環境を含めた定期的な微生物モニタリング、ヒトの出入制限や着衣交換等によるバイオセキュリティーの強化、清掃・消毒の徹底、媒介動物の駆除および生菌剤の投与等が重点項目となる。ワクチン接種もその項目のひとつである。我が国では、ウシ及びニワトリ用のサルモネラワクチンは利用可能となったが、ブタ用ワクチンはいまだ利用できない。ニワトリ用ワクチンは、ニワトリのサルモネラ症を予防することよりも、むしろ腸管内に定着するサルモネラの菌数を低減することにより、鶏卵へのサルモネラの移行を防ぐことを目的としている。統計をみる限りでは、ニワトリ用ワクチンの普及に伴いヒトのS.Enteritidisによる食中毒の発生数は減少傾向にあるようにみえるが、いまだS.Enteritidisの浸潤のある農場も認められることから、今後、さらなる徹底した対策を実施してゆく必要がある。
家畜のサルモネラ症対策は、安全かつ安心できる畜産物を生産する上での根幹となることから、引き続き様々な対策を総合的かつ徹底的に実施してゆくことが不可欠である。
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2. |
鶏コクシジウム症と生ワクチンによる対策
川原史也
日本生物科学研究所
第141回 日本獣医学会(2006年)
要旨:鶏コクシジウム症は、Eimeria属原虫の寄生による鶏の腸炎を主体とする疾病である。ブロイラーとその種鶏などの平飼い鶏に多発し、育成率、飼料要求率および産卵率などを悪化させるため、産業上非常に重要視されている。現在、鶏寄生種として9種類のEimeria属原虫が報告されているが、そのうち感染による被害が問題となるのは、E. acervulina、E. brunetti、E. maxima、E. necatrixおよびE. tenellaの5種類が主体である。本病は、糞便中に排泄されるオーシストにより感染が広がるため、対策としてオーシストの汚染と拡散を極力排除するための良好な衛生管理が求められる。しかしながら、現在の集約的な養鶏形態において、鶏コクシジウム原虫の汚染を衛生管理だけで制御することは不可能であるのが実状であり、通常は飼料中にコクシジウム予防剤を添加することにより、疾病の発生を抑制しているところである。予防剤は優れた有効性、安全性を有するうえに低コストであるため、現在の予防対策の中心的役割を果たしているが、最近、耐性株の出現の問題や薬剤に頼らない食品生産を求める消費者ニーズの高まりなどから、その代替法が希求されている。EU諸国では世界に先駆け、飼料中への予防剤の添加を大幅に制限する方針が打ち出されている。この予防剤の代替法として注目を集めているのが、コクシジウム生ワクチンである。コクシジウム原虫に感染した鶏が強固な免疫を獲得する現象は古くから明らかにされていたため、計画的に鶏にコクシジウムを感染させて免疫を付与する手段として生ワクチンが開発されてきた。最初に製品化されたのは、野外分離株を継代して得たオーシストを含有する非弱毒タイプの生ワクチンであったが、その後、より安全性を高めた弱毒タイプの生ワクチンが開発されるようになった。コクシジウムの弱毒化は、早熟性を有するオーシストを作出する方法が主流である。早熟化した弱毒株の特徴として、弱毒性状が安定しており病原性の復帰がないこと、投与動物に種特異的な免疫を付与できることがあげられ、生ワクチン用株として適した性状を有する。日本においては、現在3製品の鶏コクシジウム生ワクチンが承認および販売され、主要な5種のコクシジウムのうち4種については生ワクチンで対応が可能となった。鶏コクシ弱毒3価生ワクチン(TAM)は、初生から6日齢の平飼い鶏を対象とし、E. acervulina、E. maximaおよびE. tenellaの早熟化弱毒株のオーシストを主成分としている。鶏コクシ弱毒生ワクチン(Neca)は3日齢から4週齢の平飼い鶏を対象とし、E. necatrixの早熟化弱毒株のオーシストを主成分としている。我が国においても、抗生物質や化学合成薬剤に頼らずに鶏を生産する取り組みが盛んになってきているため、これらの生ワクチンの使用量は急速に伸びている。E. brunettiは従来、日本にはほとんど存在しない種と考えられてきた。ところが近年、日本各地の農場からの分離例が増加しており、本種の全国的な浸潤が伺われる。実際にコクシジウム症の発症事例に関与している事例も散見されているため、新規E. brunetti用生ワクチンの開発が望まれる。
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3. |
イヌパルボウイルスに対するモノクローナル抗体の解析
山元哲1)、清水輝夫2)、藤野美由紀1)、細川朋子1)、勝俣淳1)、加納塁2)、長谷川篤彦2)、岩田晃1)
1) 日本生物科学研究所、2) 日大
第141回 日本獣医学会(2006年)
要旨:【目的】抗体遺伝子の塩基配列の解析により、マウス抗体の相補性決定領域(CDR)がかなり正確に推定できるようになった。モノクローナル抗体(mAb)については抗原側のエピトープのアミノ酸配列や種々の生物活性が詳細に調べられているが、mAb側についてはあまり解析されてこなかった。我々は、イヌパルボウイルス(CPV)に対するマウスmAbを作出し、その性状を調べ、CDRのアミノ酸配列と比較した。【材料と方法】精製CPVを抗原とし、マウスに免疫して得られた脾臓細胞より、ハイブリドーマを作出した。スクリーニングは感染細胞を用いた間接蛍光抗体法および精製抗原を用いたELISAで行った。得られた6種のmAbのうち、3クローンがIgG1であり、残りはIgG2a、IgG2b、IgAであった。6クローンすべてのL鎖(κ鎖)とIgAを除く5つのH鎖の可変領域を5'RACE法でクローニングし、塩基配列を決定した。【結果】既知の遺伝情報よりCDRを推定し、塩基配列の相同性を比較したところ、3種類に分かれ、A(4クローン)、B(1クローン)、C(1クローン)とした。AとCの5クローンはCPVに対して中和活性を持ち、Bは中和活性、HI活性を示さなかった。ウエスタンブロッティングで反応したのはBクローンのみで、他は反応性を持たなかった。Aは精製抗原を結合したラテックスを凝集したが、Cクローンは凝集しなかった。【考察】以上により、CDRのアミノ酸配列と抗体の活性には相関があることが示された。抗体の性状とCDRのアミノ酸配列との関連を明らかにし、CDRのエピトープとの結合性に関する情報を得ることで、より高性能のmAbを遺伝子工学的に設計する基盤となると期待される。
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離乳ミニブタを用いたIsospora suisの実験感染
平健介、川原史也、長井伸也
日本生物科学研究所
第141回 日本獣医学会(2006年)
要旨:【背景】Isospora suisの感染は哺乳豚に発生する下痢症の一因である。本虫の哺乳豚における寄生率は高いが、その感染源は明らかにされていない。そこで、これを解析するための一助として、離乳直後のミニブタを用いてI. suisの感染実験を行い、排泄オーシスト数の推移を調査した。【方法】3頭の1ヶ月齢雌ミニブタに、成熟オーシストをそれぞれ10,000個(豚A)、100,000個(豚B)または1,000,000個(豚C)を経口投与した。さらに豚AとCでは投与後27日に、初回投与時と同数のオーシストを用いて、2回目の投与を行った。これらの試験豚について、初回投与後50日まで糞便1g中のオーシスト数(OPG)を毎日測定した。【結果】投与後5~6日から全頭にオーシストの排泄がみられた。その後OPG値は2~3回のピークを示した後減少し、投与後18日には検出されなくなった。最高OPG値は投与後7日に認められ、豚Aで1,277,500、豚Bで288,400および豚Cで84,900であった。2回目投与後のオーシスト排泄は認められなかった。便の性状については、全頭、全期間において異常はみられなかった。【考察】離乳ミニブタにおけるオーシストの排泄パターンは、通常の哺乳豚における既報のデータと類似したことから、本系がI. suisの実験感染モデルとして有用であることが示された。一般に、離乳豚におけるI. suisの感染性は低いとされているが、今回の成績から、野外において無症状感染した離乳豚がI. suisを排泄し、これにより本虫による農場の汚染が拡大する可能性が示唆された。
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イヌ免疫グロブリンG cDNAのバキュロウイルスによる発現
清水輝夫1)、藤野美由紀2)、岩田晃2)、細川朋子2)、勝俣淳2)、山元哲2)
1) 日大・大学院獣医学研究科、2) 日本生物科学研究所
第141回 日本獣医学会(2006年)
要旨:【目的】イヌ免疫グロブリン(Ig)遺伝子の塩基配列は報告されているが、組換え蛋白質の発現については報告がない。そこでイヌIgG cDNAをクローニングし、バキュロウイルスベクターを用いて発現させた。【材料と方法】イヌの脾臓から抽出したRNAを鋳型として、γ鎖およびL鎖の一部の塩基配列情報を基にプライマーを設計した。RT-PCR法を行ってγ鎖cDNA、κ鎖とλ鎖CLドメイン、および5'RACE法を用いてVLドメインcDNAをクローニングし、バキュロウイルスを用いて組換え蛋白を発現させ、抗イヌIg抗血清を用いてウエスタンブロッティングを行った。【結果と考察】γ鎖では4クローンが得られ、474もしくは468個のアミノ酸をコードし、クローン間でのアミノ酸配列の相同性は85.7~98.8%であった。CHドメインの比較ではヒト、マウスとの相同性はそれぞれ64.1~71.0%、61.6~63.0%であった。κ鎖cDNAは242個のアミノ酸をコードし、ヒト、マウスのそれとの相同性はそれぞれ58.9%、57.9%であった。λ鎖cDNAは231個のアミノ酸をコードし、ヒト、マウスのそれとの相同性はそれぞれ84.8%、73.3%であった。組換えバキュロウイルス感染細胞および培養上清にγ鎖、κ鎖と思われる約52、27kDaの2本のバンドが観察され、非還元状態では、約150kDaのバンドが観察されたことからヘテロ4量体と考えられた。また、この組換え蛋白がプロテインAと結合することも確認した。発現させた組換えIgGは塩基配列の相同性からTangらのサブタイプB、また抗体との反応性ではBethyl laboratory社のIgG2に相当するものであった。
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6. |
マイクロエマルジョンをアジュバントとした豚萎縮性鼻炎不活化ワクチンの臨床試験
染野修一、小川勝巳、江成健一、長井伸也
日本生物科学研究所
第141回 日本獣医学会(2006年)
要旨:【背景】アルミニウムゲルアジュバントは安全性は高いが、免疫惹起能は中等度である。一方、オイルアジュバントは免疫惹起能は高度だが、接種反応が強く、注射局所に長く遺残するという難点がある。マイクロエマルジョンアジュバントは、少量のオイル成分と免疫賦活性のある界面活性剤とを高速でホモジナイズした微粒子からなり、高度の安全性と優れた免疫原性をあわせもつとされる。本アジュバントを豚萎縮性鼻炎(AR)ワクチンに応用し、その安全性と有効性について野外豚を用いて検討した。【材料と方法】ワクチン抗原:Bordetella bronchiseptica (Bb)不活化菌体とPasteurella multocida トキソイド(Pm-T)。試験農場:AR発生歴がある2農場。試験方法:繁殖候補豚152頭を使用。試作ワクチンを妊娠期間中に1~2か月間隔で2回注射(初産用法試験群、66頭)、1か月間隔で2回及び分娩前2~4週に追加注射(経産用法試験群、17頭)、並びに同一の抗原を含む市販水酸化アルミニウムゲルワクチンを各用法と同じプログラムで注射(初産用法対照群、52頭;経産用法対照群、17頭)。【結果】各試験群、対照群に一般臨床症状、分娩状況及び注射局所において異常は無く、本ワクチンの安全性が確認された。A農場の初乳のBb凝集価(幾何平均値)は、試験群初産で5,120、経産で31,042、対照群初産で1,280、経産で8,128であった。Pm-Tの平均ELISA値は試験群で順に1.52及び2.00以上、対照群では順に0.98及び1.73であった。試験群で見られた高値の抗体は、産子にも移行した。B農場もA農場と同じ傾向であった。【結論】マイクロエマルジョンを用いたARワクチンは、安全で、かつ高度な抗体応答を惹起することが確認された。
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7. |
リアルタイムPCR法によるイリドウイルスの定量
堤信幸、黒田丹、星澄夫、長井伸也
日本生物科学研究所
第141回 日本獣医学会(2006年)
要旨:【背景】イリドウイルス(RSIV)感染症は、主要養殖魚種で大きな被害をもたらす重要疾病である。今回、RSIV不活化ワクチン中の抗原量の測定を代替できる方法としてリアルタイムPCR(rPCR)法を応用したので報告する。【材料と方法】検査材料:単層を形成したイサキ鰭由来細胞(GF細胞)にRSIV 5F株を接種して25℃で21日間培養し、経時的に採材したウイルス培養液。ウイルス培養液に終濃度0.1%v/vとなるようホルマリンを添加し、4℃で12日以上感作した不活化ウイルス液。不活化ウイルス液をリン酸緩衝食塩水希釈した試作ワクチンおよび市販のRSIV不活化ワクチン。rPCR法:検査材料からDNA抽出を行い、SYBR Premix Ex TaqおよびRoche社製 LightCyclerを用いてrPCR反応を行った。感染価の測定は、GF細胞を用いたTCID50法によった。【結果と考察】ウイルス培養液を材料としたとき、rPCR法によるウイルス量の測定結果は、感染価と有意に相関した。ホルマリン不活化ウイルス液では、若干感度は低下するものの、培養液と同様に定量が可能であった。試作ワクチンおよび市販ワクチンについても含有されるウイルスDNAの定量が可能であった。本rPCR法は、不活化ワクチン中のウイルス抗原量の測定を代替する方法として応用可能であると考えられた。 |
8. |
動物用狂犬病ワクチンの2回注射法による抗体応答及び安全性
江副伸介1)、山口幸雄1)、河合透1)、安田博美2)、山中盛正2)、瀧川義康3)、西條加須江3)、
久米勝巳3)、新田清彦4)、天野健一4)、大森崇司5)、土屋耕太郎5)、草薙公一5)
1) 化血研、2) 京都微研、3) 北研、4) 松研、5) 日本生物科学研究所
第141回 日本獣医学会(2006年)
要旨:【目的】2004年11月に施行された「犬等の輸出入検疫規則」に示されたわが国の動物用狂犬病ワクチン(以下、ワクチン)2回注射法による抗体応答及び安全性を5施設で確認した。【材料及び方法】有効性は、犬及び猫に1回又は4週間隔で2回注射後の血清についてワクチン株に対する中和抗体価(以下、中和抗体価)を5施設で測定し、犬血清のFAVN法による国際単位(IU/mL)を畜産生物科学安全研究所に依頼し確認した。安全性は、犬又は猫に1用量又は10用量を複数回注射し主に臨床所見で確認した。【結果】犬血清の中和抗体価及びFAVN国際単位の幾何平均値は、1回注射後1か月目ではそれぞれ192倍及び2.6IU/mL、6か月目では76倍及び1.0IU/mL、2回注射後1か月目では1,655倍及び15.9IU/mL、6か月目では285倍及び4.7IU/mLであった。猫血清の中和抗体価は、1回注射後6か月目では470倍、2回注射後6か月目では2,048倍であった。犬血清の中和抗体価と国際単位は相関し、中和抗体価4倍ではOIEの推奨する抗体価0.5IU/mL以上を示す血清の割合は0%、8倍では20%、16倍では83%、32倍では92%、64倍では94%、128倍以上では100%であった。犬及び猫に10用量を2回以上注射しても臨床上の異常は認められなかった。【考察】わが国の動物用狂犬病ワクチンは1回注射でも0.5IU/mL以上の中和抗体を誘導することを確認した。また、「犬等の輸出入検疫規則」に示された4週間隔2回注射ではブースター効果により抗体価はさらに上昇し、安全性も確認できた。中和抗体価16倍~32倍が0.5IU/mLに相当すると考えられた。
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9. |
鶏伝染性気管支炎ウイルス宮崎株 S1遺伝子のクローニング
松本菜美子1) 、佐伯圭一1) 、松本芳嗣1) 、細川朋子2)、林志鋒2)、土屋耕太郎2)、上田進2)、
小野寺節1)
1) 東京大
2) 日本生物科学研究所
第 141回日本獣医学会、2006年
要旨:【背景と目的】 鶏伝染性気管支炎( IB)は鶏伝染性気管支炎ウイルス(IBV)により引き起こされる感染症で、ワクチンによる予防が行われているが、IBVは多数の血清型が報告されており、血清型の違いによる抗原性の違いが大きいため、ワクチンが有効に作用しない場合がある。IBVはウイルスゲノム内に頻繁に変異を生じることが報告されており、血清型の違いはこの変異によって生じると考えられることから、国内で分離された株の一つである宮崎株のS1遺伝子のクローニングおよび塩基配列の解析を行った。 【材料と方法】 IBV宮崎株感染尿膜腔液からウイルスRNAを抽出し、RT-PCRを行った。既知のS1遺伝子塩基配列を元に設計されたプライマーを用いてS1遺伝子全領域を含む約1.7kbを増幅し、プラスミドにサブクローニングした後、塩基配列を決定した。 【結果と考察】 塩基配列の解析を行った結果、 IBV宮崎株のS1遺伝子は1614bpの塩基配列からなり、予想されるアミノ酸残基は538個であった。また、既に報告されている他の株の塩基配列との相同性は83%から98%であり、アミノ酸配列の相同性は78%から94%であった。IBVのS1タンパクは免疫応答において重要な役割を担っており、S1遺伝子の変異が新たな血清型出現の主な要因であると報告されていることから、今回解析したアミノ酸配列の変異が宮崎株の抗原性を決定していることが考えられた。今後、このS1遺伝子を用いて、免疫原性の検討を行なう予定である。
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10. |
A trial to establish new fish cell lines susceptible to piscine nodavirus
Kuroda, A.1) , Tsutsumi, N.1) ,Mori, K.2) , Yamashita, H.3) , Tanaka, S.4) , Hanyu, K.5)
Okinaka, Y.6) , Nagai, S.1) and Nakai, T.6)
1) Research Department, Nippon Institute for Biological Science
2) National Research Institute of Aquaculture , Fisheries Research Agency
3) Ehime Prefectural Fisheries Experimental Station
4) Mie Prefectural Science and Technology Promotion Center
5) Owase Fisheries Laboratory, Mie Prefectural Science and Technology Promotion Center
6) Hiroshima University .
First Internationa Symposium on viral nervous necrosis of fish, 2006, Hiroshima (Poster presentation)
Abstract: Sevenband grouper Epinepherus septemfasciatus is highly susceptible to piscine nodavirus (Nodaviridae, Betanodavirus), particularly redspotted grouper nervous necrosis virus (RGNNV). Our previous study demonstrated the efficacy of formalin-inactivated RGNNV against viral nervous necrosis of sevenband grouper. The prerequisite for the practical use of the inactivated vaccine is to cultivate the virus on a large scale. The E-11 cell line is considered suitable for efficient cultivation of betanodavirus because of its high susceptibility to the virus. However, this cell line contains retrovirus genes that seem to be derived from its original cell line SSN-1 which was persistently infected with a C-type retrovirus, SnRV. Therefore, we tried to establish new fish cell lines for RGNNV and also other betanodaviruses in a retrovirus-free background. Cell suspension was prepared from sevenband grouper fins, and cultured in L-15 medium supplemented with 10% FBS at 25 ℃ . Cultured cells from sevenband grouper fin (SBGF) were morphologically fibrobrast-like after 30th passages. PCR tests for detection of SnRV in both the fin tissues and cultured cells were negative. SBGF cells in a 25cm 2 flask were inoculated with RGNNV strain Mie95 at MOI=1, which caused the cytopathic effect of cell rounding followed by detachment. The viral antigen in SBGF cells was visualized by IFAT using rabbit anti-SJNNV serum. Virus titer of RGNNV strain Mie95 cultured in E-11 cells was 10 6.6 and 10 8.1 TCID 50 /mL when measured in SBGF cells and E-11 cells, respectively, while that of RGNNV cultured in SBGF cells was much lower showing 10 3 TCID 50 /mL when measured in E-11 cells. Newly prepared SBGF cells were susceptible to RGNNV but could not produce the virus at a high titer as shown in E-11 cells. Cloning of SBGF cells to increase susceptibility to RGNNV and/or adaptation of the virus to SBGF cells should be examined in future studies.
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わが国の動物用狂犬病ワクチンの有効性と安全性
土屋耕太郎
日本生物科学研究所
家畜衛生フォーラム 2006『狂犬病の侵入をいかに防ぐか』
要旨: わが国の現在の動物用狂犬病ワクチンはシードロットシステムにより製造される組織培養不活化ワクチンである。年間約 500万頭分が供給されている。本ワクチンの検定法の概要、国際基準に照らした有効性の評価成績、安全性について述べる。最後に、国内外での新しい狂犬病ワクチンの開発動向とその利用の成果を紹介する。
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イヌパルボウィルスに対するイヌ化抗体の作製
山元哲1) 、清水輝夫2) 、藤野美由紀1)、細川朋子1)、勝俣淳1)、加納塁2)、長谷川篤彦2)、
岩田晃1)
1) 日本生物科学研究所
2) 日本大学
第 142回日本獣医学会、2006年
要旨:【目的】 モノクローナル抗体を治療に用いるために、抗体の相補性決定領域 (CDR)を維持したまま、異物認識応答を起こさないようにフレームワーク部分を遺伝子工学的な技術を用いてヒトのアミノ酸配列に変更したヒト化抗体が作製され、実用化されている。我々はイヌ免疫グロブリンのγ鎖、κ鎖cDNAをクローニングし、また、イヌパルボウイルス(CPV)に対する中和モノクローナル抗体(CP1a?CP6a)を作製して性状解析を行った(第141回獣医学会)。これらの抗体を使用して、CPVに対する抗体のイヌ化を試みた。 【方法】 イヌ化するためにフレームワーク部分の相同性が高い CP2a抗体(Vκ鎖72%、Vγ鎖59%)をベースとして選択した。CP2a抗体はCPVのVP2タンパク質にウエスタンブロッティングで反応するが、CPVに対する中和やHI活性はない。イヌγ鎖、κ鎖およびCP2a抗体のCDRをcontact法に従って予測し、イヌ化VH、VLドメインを設計した。全合成したVドメインにCドメインを遺伝子工学的に結合させ、バキュロウイルスベクターで発現した。 【結果】 発現したイヌ化 CP2a抗体は感染培養上清に分泌され、その量は2μg/mLと概算された。CPV-VP2タンパク質に対する反応性はウエスタンブロッティングで検討した。イヌ化CP2a抗体は、ベースとなったCP2a抗体とほぼ同じ結合能力を示し、また、CPVのVP2タンパク質上の結合領域も同じであり、反応部位は219-292番目のアミノ酸配列にあると予想された。以上のことからマウスモノクローナル抗体と同等の性能を持ったイヌ化抗体が作製されたと考えられた。
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SPF豚の関節炎から分離された豚丹毒菌の spaA 遺伝子高変異領域の塩基配列分析に基づく株型別
To Ho、長井伸也
日本生物科学研究所
第 142回日本獣医学会、2006年
要旨:【緒言】 最近、と畜場の関節炎材料から分離される豚丹毒菌( Er )と Er 生ワクチンとの関連性が示唆されている( Imada ら , 2004 )。そこで、食肉処理場において SPF 豚の関節炎材料から分離された Er 16 株について、 spaA 遺伝子の高変異領域の塩基配列を分析することにより株型別を行い、他の性状解析結果とあわせ、その疫学的背景について考察した。 【材料と方法】 Er 16 株の性状は長野県飯田家畜保健衛生所及び動物衛生研究所にて調査された。 spaA 遺伝子の高変異領域( 168-311番アミノ酸のコード領域)の 塩基配列は常法に従い決定した。 【結果】 Er 16 株の血清型は 1a(10 株 ) および 1b(6 株 ) で、 1a の 7 株がアクリフラビン ( AF ) に耐性を示した。 spaA 領域の配列がワクチン株のそれと同一であったものが 3 株(グループ v )及び 54 番目の C が A に置換している株が 5 株(グループ a )存在した。残りの 8 株は種々の塩基がワクチン株と異なった。グループ v 各株の性状は、血清型 1a 、 AF 耐性( 1 株は感受性)、 RAPD 型 1-2 、 RFLP 型 1 であった。グループ a は血清型 1b 、 AF 感受性、 RAPD 型 12 、 RFLP 型 1 または 6 であり、野外株と推察された。 【考察】 1)今回関節炎から分離された Er のほとんどが野外株と判定された 2) 野外株と思われる多数の菌株が AFに耐性を示し、本性状は必ずしもワクチン株のマーカーにはならなかった3)ワクチン株に特徴的とされる RAPD 及び RFLP 型を示す株の一部( 9株中3株)はワクチン株と同一の配列を有し、今後更なる分析を要する4) spaA 高変異領域の塩基配列分析による株型別は、Erの疫学調査に有用であると思われた。
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Development of a genetically modified nontoxigenic Pasteurella multocida toxin as a candidate for use in vaccines against progressive atrophic rhinitis in pigs
To, H., Someno, S. and Nagai, S.
Nippon Institute for Biological Science
19 th International Pig Veterinary Congress, 2006 at Copenhagen , Denmark
Abstract: 【 Introduction 】 Pasteurella multocida toxin (PMT) is the primary etiology agent of progressive atrophic rhinitis (PAR) (1). Genetic information on the toxin-encoding gene has enabled the development of a new generation of vaccines against PAR using a modified nontoxic PMT. Recently, Petersen et al. (2) showed that a deletion derivative (dO) of PMT, lacking 121 amino acids at the N-teminal region is nontoxic and immunogenic. Ward et al . (3) have also pointed out that mutant toxin replacing cysteine with serine at position 1165 (C1165S) is nontoxic to piglets and cultured cells. However, these studies did not clarify whether the mutant C1165S could be a good candidate for a vaccine component against PAR or not. In this study, we have prepared a mutant toxin by replacing serine 1164 with alanine, together with replacing cysteine 1165 with serine (S1164A+C1165S), and examined the possibility of applying it as a candidate for a vaccine component against PAR. 【 Materials and Methods 】 The wild-type and mutant toxins used in this study were produced by E.coli XL-1 blue transformed with pSN1131, containing the full coding sequence of PMT, and with mutagenized plasmid pTH161, encoding mutant toxin S1164A+C1165S, respectively (4). The pTH161 was created from the pSN1131 by sequential PCR steps (5). The toxins were purified as described previously (4). Dermonecrotic test in guinea pigs and intraperitoneal toxicity test in mice (5) were used to determine the minimal dermonecrotic dose and the 50% lethal dose, respectively. For evaluation of immunogenicity of the mutant toxin, three pigs were immunized intramuscularly with 16μg of the mutant toxin twice at a 3-week interval. Another 2 pigs were used as non-immunized control animals. Two weeks after the second immunization, all 5 pigs were challenged intramuscularly with 4μg of the wild-type toxin/kg of body weight. The pigs were euthanatized and autopsied 2 weeks after the challenge. Turbinate atrophy was examined macroscopically and assigned a score that ranged from 0 to 3: 0, normal; 1, slight; 2, moderate; 3, severe. 【 Results and Discussion 】 The elution profiles of the wild-type and mutant toxins by use of chromatography were similar to each other. The SDS-PAGE patterns of both PMTs were totally identical. Western immunoblotting analysis with polyclonal antisera against PMT showed that the immunoreactivities of both PMTs were indistinguishable. These data indicate that this two-amino acid substitution has not affected gross structure, the electrical charge and antigenicity of the toxin. The minimal dermonecrotic dose in the guinea pig skin test was calculated as 0.5μg/ml for the wild-type toxin and >840μg/ml for the mutant toxin. The 50% lethal dose for mice was approximately 20μg for the wild-type toxin and > 3,200μg for the mutant toxin. These results show that mutation of S1164A together with C1165S led to a complete loss of toxic activity of PMT. In protection assay, the immunized pigs became seropositive but the control pigs remained seronegative by the anti-PMT ELISA. At necropsy, it was found that the scores of turbinate atrophy of the 2 control pigs were 2 and 3, respectively, whereas those of the three vaccinated pigs were 0 (Figure 1). These data suggest that a nontoxigenic, modified PMT induces antitoxic immunity that protects pigs against experimental challenge with wild-type PMT. This study clarified that this genetically modified PMT, S1164A+C1165S, is a potential vaccine component for PAR. More importantly, it documented that the mutagenesis approach enables efficient production of this pure, nontoxic, and highly immunogenic protein.
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リアルタイム検出 PCR法による鶏コクシジウム原虫DNAの定量と検出
川原史也、平健介、長井伸也
日本生物科学研究所
第 142回日本獣医学会、2006年
要旨:【目的】 鶏コクシジウム症の診断は、一般に糞便検査によってコクシジウム原虫のオーシストを検出することにより行われる。顕微鏡下でオーシストを観察して形態と大きさから種の鑑別を行うが、それらは種間で類似していることも多く、正確な判定には高度の熟練を必要とする。そこで、種特異的に鶏コクシジウム原虫 DNAの定量が可能なリアルタイム検出PCR法の開発を試みた。 【方法】 Eimeria acervulina 、 E.brunetti 、 E.necatrix 、 E.tenella (以下それぞれ Ea 、 Eb 、 En 、 Et ) を対象にして、 ITS-1領域内の種特異的な配列を基にプライマーを設計した 。 E. maxima (以下 Em ) については既報の PCR用プライマーを使用した。PCR反応とリアルタイム蛍光検出は、ライトサイクラークイックシステム 350S ( Roche Diagnostics 社製)を用いて実施した。 【結果】 標準試料の測定では、横軸にオーシスト数 (常用対数)を、縦軸に Ct値を取ると、各種の測定値はそれぞれ一次直線上に配置され、増幅産物の融解曲線分析により、種毎に単一のピークと固有の Tm 値を示した。鶏コクシジウム症の発生が疑われた種鶏群から採取した材料 7検体について本法を応用したところ、 Eb は 6検体、 En は 4検体、 Ea 、 Em 、 Et はそれぞれ 2検体から 検出され、他のコクシジウム種とともに Eb の浸潤度の高さが伺えた。 【考察】 本法は、特別な熟練を要することなく、簡便かつ迅速に、種特異的な鶏コクシジウム原虫 DNA の定量を可能とする。従って、鶏コクシジウム症の診断に有用であると考えられた。
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鶏コクシジウム生ワクチン野外応用例
川原史也
日本生物科学研究所
第 244回鶏病事例検討会、2006年
要旨: 鶏コクシジウム症は Eimeria 属原虫の寄生に起因する鶏の腸炎を主体とする疾病である。本症は平飼い鶏に多発して育成率、飼料要求率および産卵率などを悪化させるため、主にブロイラー産業において多大な経済的被害をもたらしている。本症の予防対策として、従来、コクシジウム予防剤が中心的役割を果たしてきたが、近年では薬剤耐性株の出現が問題化し、また薬剤に頼らない安全・安心な食品生産を求める消費者の声もあることから、これに変わってコクシジウム生ワクチンの利用が急速に拡大してきた。本報告では、当該生ワクチンを用いたコクシジウム対策について、生産現場における応用事例について紹介する。 |
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Splenic Interleukin-12p70 Concentration, Delayed Type Hypersensitivity, Helper T cell differentiation in C57BL/6, CBA, DBA/1, and BALB/c Mice Infected with Babesia microti and Babesia rodhaini .
Ohmori, T.1), 2), Shimada, T.3), Matsuki, N.2) and Ono, K.2)
1) Nippon Institute for Biological Science
2) The University of Tokyo
3) Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine
The 15th German-Japanese Symposium on Protozoan Disease, Obihiro, 2006
Abstract: It has been well known that strain differences on the susceptibility against Babesia spp infection in mice, although an activation of Th1-immune response with IL-12 production is very important to eliminate intracellular protozoa. To investigate immune responses with Babesia microti (non-lethal infection in BALB/c mice) and B. rodhaini (lethal infection) infection, parasitemia, delayed type hypersensitivity (DTH), IFN-γand IL-4 mRNA expressions in helper T cell, and splenic IL-12p70 concentration were examined in C57BL/6, CBA, and DBA/1, and BALB/c mice. All 4 strain mice showed similar pattern in parasitemia with a different peak of the day after the infection with B. microti or B. rodhaini . In B. microti infection, all strain mice increased DTH response, whereas no response was observed in all strain mice infected with B. rodhaini . In the 2 nd day of infection with B. microti , expression of INF-γ mRNA was detected in splenic helper T cell from all 4 strain mice, while no expression of IL-4 mRNA was observed from all strain mice infected with both B. microti and B. rodhaini . Remarkable increases of splenic IL-12p70 level with 2 peaks were observed in all 4 strain mice infected with B. microti, whereas no increase of the level was observed in all strain mice infected with B. rodhaini . From these results, it is suggested that there are no remarkable strain differences in early phase immune responses in mice infected with B. microti and B. rodhaini .
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鶏の実験的アミロイド症の病理学的解析
平井卓哉、布谷鉄夫、永野哲司
日本生物科学研究所
第 142 回日本獣医学会 、 2006
要旨:【目的】 鳥類のアミロイド症は水禽類の趾留症や褐色採卵鶏の Enterococcus faecalis 感染による関節症、細菌性卵管炎などの慢性疾患にしばしば続発する。その他に細菌性多価不活化ワクチンの反復使用によるアミロイド症が知られているが、報告例は少なく、詳細は不明である。本研究では鶏に死菌抗原を高用量複数回投与してアミロイド症を誘発し、その病態を解析した。 【材料と方法】 サルモネラ・エンテリティディスの高濃度の全菌体不活化菌液を油性アジュバントに混合し、その 2 mLを4週令 SPF鶏の雌に3週間隔で3回筋肉内に投与した。さらに鶏伝染性コリーザ(A・C型)およびマイコプラズマ・ガリセプチカムの不活化菌体を夫々アルミニウムゲルアジュバントに混合し、同じ部位へ1 mLずつ同様に投与した。経時的に病理学的検索を実施し、コンゴーレッド染色、 in situ hybridization ( ISH ) 法による血清アミロイド A前駆蛋白( SAA ) mRNA ならびに免疫染色によるアミロイド A抗原の検出を行った。また、経時的に血漿を採取し急性期蛋白を測定した。 【結果および考察】 アミロイド症は接種鶏の多数に発生し、初回投与後 4週頃より本症によると思われる死亡鶏もみられた。剖検では発症鶏の肝臓は腫大し、緑色調を呈していた。投与部位には中等度~重度の炎症反応が認められた。組織学的に肝臓のディッセ腔にアミロイドが沈着し、コンゴーレッド染色で赤橙色を示した。類洞は狭窄し、出血や肝細胞の萎縮が認められた。ISH法では接種鶏の肝細胞の多くにSAA陽性シグナルが検出された。以上より、複数の不活化菌体の高用量を頻回投与することにより反応性アミロイド症が誘発され、それは肝細胞による SAA 産生に関連していた。 |
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カフェインの NIBS系ミニブタにおける28日間反復経口投与毒性試験
渋谷一元、北條隆男、中村圭吾、飯島義光、藤井哲夫、金子満、石川忍
日本生物科学研究所
第 33回日本トキシコロジー学会年次大会、2006年
要旨: 【目的】近年、医薬品の非臨床試験においてイヌ、サルに次ぐ非げっ歯類の実験動物としてミニブタが注目されてきている。ミニブタは現在主に循環器系薬理試験あるいは医療機器の安全性評価などに用いられているが、薬物によっては肝臓における薬物代謝プロファイルがヒトに類似する場合もあり、今後一般毒性試験における利用が高まるものと期待される。本研究では、 NIBS系ミニブタのTK測定を含む一般的な毒性学的所見を収集することを目的に、カフェインの28日間反復経口投与毒性試験を実施した。 【材料と方法】 4?5ヵ月齢のミニブタ雌雄各群3匹に、注射用水に溶解したカフェインを0、2、4および8 mg/kgの用量で胃管を用いて28日間連続経口投与した。初回投与後1、2、4、6、8および24時間および試験28日の投与直前ならびに投与後1、2、4、6、8および24時間に採取した血漿を用いてTK測定を実施した。投与開始前および試験4週に眼科学的検査、尿検査、血液学的検査および血液生化学的検査を実施した。投与期間終了後、剖検を行い、主要器官の重量を測定するとともに、採取した全身諸器官の病理組織学的検査を実施した。 【結果】 試験期間中に死亡動物はなく、臨床症状も観察されなかった。 TK測定において、初回投与時は雌雄とも投与用量と血漿中濃度あるいはAUCとの間にほぼ線形の相関がみられたが、投与後24時間では雄の8 mg/kg群において血漿中からの消失性が低くなった。試験28日では雌に比較して雄の投与直前の血漿中濃度が高く、AUCの個体差が大きくなった。 【考察】 これらの結果から、 NIBS系ミニブタでは雌に比較して雄において連続投与によるカフェインの血漿中における蓄積性が高いこと、その血漿中からの消失速度の個体差が大きいことが明らかとなった。その他、対照群に比較して、体重、眼科学的検査所見、尿検査項目、血液学的検査項目、血液学的検査項目、器官重量および体重比器官重量に投与用量に関連した変化はなかった。 |
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実験動物として確立された NIBS系SPFネコの生産コロニーの確立と維持管理について
藤原哲、佐野順一、八城英和、斉藤敏樹、矢澤肇、上田進
日本生物科学研究所
第 53回 日本実験動物学会総会、2006
要旨: 我が国において、 SPFネコの生産は特殊な機関を除いてまだ確立されていない。そのため、様々な研究機関では諸外国から輸入し様々な研究に使用している。輸入した場合、多くの研究者にとって、検疫の関係で、使用したい月齢で入手困難なことが多く見られ、研究に支障をきたしていることが現状である。我々は、これまでSPFネコの研究開発に取り組んできたが、このほどSPFネコの生産コロニーを確立した。 NIBS 系 SPF ネコは、 2003 年に導入したヨーロピアンショートヘアー種を起源として、 2004 年、生産コロニーが確立できたことから NIBS 系と命名した。本コロニーは 8 群のローテーションシステムで維持しており、特徴として、短毛で、性格は温順、頑健で飼育しやすいことが挙げられる。また、本系は今後、種々の疾病研究用、ワクチン製造用あるいは検定用動物として利用が期待される。本発表では、 NIBS 系 SPF ネコ生産コロニーでの平均産子数、平均体重、血液生化学値および当研究所 SPF ネコ舎における維持管理システムの概要について紹介する。 |
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生殖細胞キメラを介した筋ジストロフィー発症ニワトリの再生
藤原哲 1), 2)、小野珠乙2)、鏡味裕2)
1) 日本生物科学研究所
2) 信州大学
日本家禽学会 2007年度春季大会、2006
要旨: 【目的】 ニワトリ筋ジストロフィーは 40年以上前からその存在が知られており、今までに多くのニワトリ筋ジストロフィー発症系が確立されてきた。その一つにNew Hampshire種の413系(NH-413)と呼ばれる筋ジストロフィー発症系が存在する。現在、NH-413系は、福山型筋ジストロフィーの発症モデルとして有用であろうと考えられている。しかし、分子生物学的手法による筋ジストロフィー遺伝子の同定は現在に至るも明らかにされていない。また、通常の交配によってNH-413系の後代を得ることも困難である。そこで、我々は、(財)日本生物科学研究所で確立された白色レグホン(L-M系)と、NH-413系を用いて生殖細胞キメラを作出し、筋ジストロフィー症ニワトリの再生を試みた。【 材料及び方法 】 材料には白色レグホン受精卵( L-M系)をレシピエントとし、NH-413系受精卵(筋ジストロフィー症系)をドナーとした。レシピエント受精卵の胚盤葉明域中央部の一部を物理的に除去した。この処理胚へ、ドナー系の胚盤葉明域中央部細胞をインジェクションし、NH-413系由来のキメラニワトリを作出した。作出したキメラのうちドナー由来の表現型(羽毛色)を発現している個体をキメラと判定した。また、NH-413系を用いて作出したキメラの後代検定を試みた。 【 結果 】 孵化直後のキメラ個体は、表現型、行動による筋ジストロフィー症発症などの特性は確認できなかった。しかし、孵化後 4日齢以降において、キメラの羽装中にドナー由来の羽装が認められた。また、2週齢頃には首を傾ける行動、片側の羽が挙がりにくいといった行動異常が確認できた。その後、観察を継続したが顕著な行動異常は確認できなかった。NH-413系に特徴的な羽の硬直(フリップテスト陽性)は確認されなかったが、行動異常は現在も続いている。また、NH-413系と作出キメラの交配によって得られた後代の雛は、すべてドナー由来の羽装を示した。 【 考察 】 今回の研究では、作出キメラニワトリにおける筋ジストロフィー症の発症は確認できなかった。しかし、行動異常を示したことから筋ジストロフィー遺伝子の限定的な関与が考えられた。また、キメラの精子を用いた人工授精によって筋ジストロフィー発症個体の作出を試みたところ、全ての雛においてドナー由来の羽装を示した。また、これらの雛においては、筋ジストロフィーの発症が確認された。さらに、発症が確認された個体同士の交配を行なったところ、すべての個体においてドナー系同様の筋ジストロフィーを発症した。これらのことから、作出したキメラは生殖系列キメラであるものと確定した。また、本研究によって生殖細胞キメラを解して、効率的に筋ジストロフィー発症個体を再生することに初めて成功した。これらの発生工学的技術は、疾患モデル動物の効率的な開発や、鳥類遺伝資源の保存、等に非常に有用であろうと考えられた。
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ニワトリ筋ジストロフィー原因候補遺伝子の解析
松本大和1)、丸瀬英明1)、吉澤奏子1)、笹崎晋史1)、藤原哲2)、菊池建機3)、市原伸恒4)、
向井文雄1)、万年英之1)
1) 神戸大学
2) 日本生物科学研究所
3) 国立精神・神経センター神経研究所
4) 麻布大学
日本動物遺伝育種学会第 7回大会、2006
要旨: 【目的】 本研究室ではこれまでニワトリ筋ジストロフィー原因遺伝子の探索のため、ニワトリ筋ジストロフィーリソースファミリー F2 家系を用いてハプロタイプ分析を行ってきた。その結果、第 2 染色体 q 腕上の機能遺伝子 7 個 ( ATP6V0D2 、 LOC420211 、 WWP1 、 LOC420213 、 LOC420214 、 LOC428367 、 MMP16 ) が原因候補遺伝子として同定された。これら 7 遺伝子のいずれもが既知の筋ジストロフィー発症関連遺伝子ではなく、詳細な遺伝的解析が必要とされる。そこで本研究では各原因候補遺伝子の翻訳領域の塩基配列を決定し、病因となる変異の同定を試みた。 【方法】 ニワトリ全ゲノム情報を用いて各原因候補遺伝子の翻訳領域を増幅するようにプライマーを設計し、塩基配列決定後、筋ジストロフィー発症鶏と正常鶏の塩基配列を比較した。検出されたアミノ酸置換を伴う突然変異に対し、他品種鶏と他生物種でのアミノ酸の保存性を調査した。 【結果及び考察】 原因候補 7 遺伝子に対し各翻訳領域の塩基配列を決定した結果、サイレント変異が 3 個、ミスセンス変異が 2 個検出された。 MMP16 で検出されたアミノ酸置換はイソロイシンからバリンへと変化するものであり、これらは共に中性アミノ酸であった。一方、 WWP1 で検出されたアミノ酸置換はアルギニンからグルタミンへと変化するもので、塩基性アミノ酸から中性アミノ酸への置換であった。アミノ酸の性質がより大きな変化を引き起こすことから、後者の変異がニワトリ筋ジストロフィー発症に関与している可能性が強く示唆された。 WWP1 の当該領域のアミノ酸は、調査したニワトリ 16 品種全てで保存されており、またヘビ、ワニ、ハト、カメ、カエル、トカゲ、ウシ、マウス、ラット、イヌ、サル、ヒトで高度に保存されていた。従って、当該遺伝子はニワトリ筋ジストロフィー最有力候補遺伝子と考えられた。 |